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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
最後の恋は神さまとでした
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都会はやっぱりすごかった/4

 落ち着いた場所で、屋内噴水が背後でさらさらと音を立てていた。様々な種族の人々が、思い思いに仕事を探している職業案内所。


 ウサギの男と焉貴は対面で、机を間にして座っていた。


「どのようなご職業をお探しですか?」

「どんなのがあんの?」

「小学校の教師ですと、すぐにつくことが可能ですが……」

「五歳から十歳までのガキに教える先生ね?」

「えぇ、さようでございます。空きは一年生の担当のみとなってしまいますが……」


 生まれて、八ヶ月で五歳となってしまう、新しくできた世界の法則。歩けば棒に当たるほど、子供の年齢を聞けば、五歳と返ってくる。それは、この宇宙でなくても同じだった。焉貴は頬杖をつく。


「そうね。五歳が増え続けてるからね」

「どうなさいますか?」


 画家はひとまず脇へ置いておいて、焉貴はすぐ近くにあった消しゴムを、人差し指で机の上でコロコロと転がした。


「うち兄弟が多くてさ、小さい《《の》》に色々教えてたけど、その経験でもいけんの?」


 ウサギはにっこり微笑んで、しっかりとうなずく。


「それだけで十分でございます。あとは実際に就いてから、学んでいただけでば大丈夫ございます」

「そう」

「教科は何にしますか?」

「数字に強いから、算数でもいいの?」

「かまいません」


 ウサギはうなずきながら、慣れた感じでパソコンの画面を素早くチェックした。


「ちょうど空きがございますので、軽いテストに合格していただければ、すぐに就業できます」

「そう、ありがとう」


 焉貴が言うと、他の人から見えないように、透明なロックがかけられ、宙に浮かんだ画面で出題が始まった。


 数分後――、ウサギがパソコンの画面で計算されたテスト結果を発表した。


「それでは、テストも合格でございましたから、女王陛下が校長を務めます、姫ノ館、初等部の算数教師としてご勤務いただけますが、どこか他にご希望はございますか?」


 テレビによく出ている学校だ。皇子と皇女も通っている大学まである――今や地球五個分の広さがある大きな学校だった。


「他にもあんの?」

「えぇ、『恋してる館』も募集していますが、こちらは少々中心街から離れてしまいますが……」

「そうね?」


 焉貴は椅子に横向きで座り、夏の日差しが照らし出す美術作品の宝庫の街並みを見渡す。


「俺、結構、都会って気に入ったよ。合ってんのかも」


 新しい文化はもう始まっていて、その中心地がここだ。刺激のあるものはたくさんあった。


 あのさえぎる高い建物がない広大な景色もいいが、人が作り出した芸術がいくらでも堪能できる都会。だから、焉貴は、


「姫ノ館にして?」

「かしこまりました」


 ウサギがにっこり微笑むと、意識化とつながっているパソコンを特別なモードにする。


「ただいま登録をいたしますので、お名前いただけますか?」

森羅万象むげん 焉貴」


 マダラ模様の声で言うと同時に漢字変換され、パソコンにデータが打ち込まれてゆく。視線で作業をしながら、ウサギの可愛らしい鼻がモゴモゴと動く。


「なお、現在学校は夏休み期間中でございますから、十月以降……」


 隣に立てかけていたカレンダーを赤くくりっとした目で見つめて、ウサギは少し考える。


「そうですね……? 姫ノ館の通常の休みは、月、火、金となっておりますので……本年度は一日、二日がお休みですから、三日の水曜日からご勤務となります」


 一年中農作物が取れる農家で、休みなどなく手伝いながら過ごしてきた焉貴は頬杖をやめて、ボブ髪を少し気怠そうにかき上げた。


「学校の先生にも夏休みとかあんの?」

「えぇ。その他にも、冬休みや春休みもございます」


 例えば喫茶店へ行って、ジュースをひとつ頼む。絵で支払いができるのならいいのだが、今のところそれは期待できない。それでは、算数を教えることで払うにはまだまだスキルが足りない。


 当面はお金という紙とコインが必要。当然ながら、焉貴の心配事は、


「長期の休みの間も給料出んの?」

「もちろんでございます」


 ウサギはキリッとした顔つきになり、女王陛下が校長を務める小学校へ敬意を払った。


「家族の時間を大切にすることが、姫ノ館の方針でございますから、先生たちにも休みを取っていただいております」

「年間でどのくらい休み?」

「ざっと半年ほどかと……」


 半年間、時間が自由にあって、お金は入ってくる。その条件に感心して、焉貴は椅子の背もたれに寄りかかった。


「じゃあ、先生の勉強のレベルどんどん磨かれちゃうね?」

「えぇ、さようですね」

「休みの間算数の勉強しないと、生徒に教える内容に大きく差が出ちゃうじゃん」

「えぇ、ですから、生徒も教師もますますハイレベルの勉強ができるという、良循環なんです」


 向上心を持っているのが当たり前の人々が暮らす。幸せの連鎖が続く神世だった。


「宿舎のお手続きはされますか?」

「ひとつお願い」

「かしこまりました」


 数分後、携帯電話に入力した地図を頼りに、焉貴は外へと出て、城の最寄駅――帝国センターステーションから電車に乗って、宿舎へと真新しい街並みを眺めながら、遠くの宇宙からきた新任教師は首都になじんでいった。

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