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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
最後の恋は神さまとでした
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彗星の如く現れて/3

 今日の謁見は全て終了し、あとは書類の整理を残すだけとなった、神界にある城の執務室。陛下はペンを動かしていたが、心の中に急に浮かび上がった。


(それがああだから、そうする……)


 何かの決断をして手を止め、表情ひとつ変えずに側近に声をかけ、


「あとはいいから、下がれ」

「はい、かしこまりました」


 部下は丁寧に頭を下げて、扉から出て行った。人払いをした執務室で、陛下の体は薄く光り、トレースシートに書いた二枚の絵がずれるように、もう一人の人物が現れた。


 銀の髪を持ち、鋭利なスミレの瞳で、最低限の筋肉しかついていないすらっとした体躯の男が、書斎机の真正面に立っていた。


「別の個体として生きていくよう、お前は私の一部分を『分身』させた」


 高い声をわざと低くしたようなそれで言う陛下の前で、潔癖性を表すようなきちんとした服装の男は、生まれたばかりだったが、礼儀はきちんとわきまえていて、床に片膝をつけ最敬礼で跪き、こうべを垂れた。


「はい」


 前世でもなく、どこにも属さない、突然十八歳から人生が始まった男に、陛下は最低限の施しをする。


「お前には、月水つきみず 蓮と名づける」

「恐れ入ります」


 蓮は大理石を見つめたままうなずいた。


 与えられないのが普通で、与えられるのは奇跡であり、至福なのだと、陛下から生まれた神はよく理解していた。


 陛下が椅子の上で足を組むと、鉄でできた鎧が足元でカチャッと音を立てた。肘掛にもたれかかり、暮れてゆく首都の街並みを背景にして、堂々たる態度で言った。


「これから命令を下す。よく聞け」

「はい」


 そして、陛下の口からこの人の名が告げられた。


「明智 光秀という人物がいる。その三女の名は倫礼と申す」

「はい」


 蓮の意識は急速にはっきりとしてゆき、次々に欠けていたパズルピースが解かれてゆくように、ここから一人で生きられるための常識が伝授されてゆく。


「地球という場所の情報はすでに魂の中に入っておろう?」

「はい、ございます」


 人間が厳しい修業をする場所で、自分たちが守護をする世界。邪神界の影響が今も色濃く残り、先日大勢の魂が霊界へ引き上げられたところ。


「そこで生きている肉体のひとつに、倫礼が魂の波動を与えている。その人間の女のところへ行け。その後はお前の好きなようにしてよい。守護神をしている明智 光秀には、私からお前が行くことは直接伝えた」

「はい、かしこまりました」

「この部屋を出たと同時に、お前とは親子でも何でもない。一人の人間として生きてゆくがよい。以上だ」

「はい」


 蓮はそう言って、生まれたばかりの記憶を使って、瞬間移動で倫礼と名乗ることが許された人間の女の元へきたのだった。


 そういうわけで、彼女を真正面にして彼は席に座っている。


 蓮は思う。自分の中にある情報では、目の前にいる人間の女は、大人の神の声を聞くことはできても、見ることはできないと。


 しかしさっきのあの視線は、確実に自分を見ている目だった。愚かなことに、今まで聞いた他の神から自分を探そうとはしていたが。


 何が起きているのか、何がそうさせたのか、生まれたばかりの蓮にはまったく見当がつかなかった。

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