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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
最後の恋は神さまとでした
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パパがお世話になりました/1

 季節はまためぐり、新しい春がやってきた。宇宙が統治されるたび、飛んでゆく飛行船のルートは増えて、遠くから首都へと引っ越してくる人々が後を立たず、ここ姫ノ館の全ての学部で生徒数が急上昇中。


 特に、初等部の成長は凄まじく、五年もまだ経たないのに、小学校一年生だけでも十数兆となっていた。


 去年も一昨年も一年生だった子供たちに、また新学期が始まり、神界レベルで知恵と心は大きく育ってゆく。


 教室の後ろには様々な親たちが並び、大きな龍は高い天井に登り体を巻き、顔だけ下ろして我が子を見ていると、子供の龍が振り返って嬉しそうに微笑んだ。


 人手が足りている世界。お金がなくても生きていける世界。両親そろって子供の様子を見ている夫婦たちばかりだった。


 パパ友ふたり――明引呼と貴増参は、六百八十年近くは間違いなく一緒という腐れ縁。今日も肩を並べて、子供たちも隣の席という仲だった。


 そこへ、はつらつとしているが鼻にかかった男の声が割って入ってきた。


「おう! たかじゃないか!」


 呼ばれたほうへ、火炎不動明王という強そうな名前を持つ優男は振り返って、晴れ渡る草原でもスキップするように注意した。


「僕の名前は貴増参です。省略しないで呼んでくださいね♪」


 男はげんなりして、ひまわり色の髪をかき上げ、若草色の瞳を曇らせた。


「お前相変わらずだな。親友だから、わざと略して呼んでるんだろう?」

「誰だ?」


 明引呼は間に立っている貴増参の腕をトントンと手の甲で叩いた。優男は意外というような顔で、


「おや? お父さんは知ってましたが、息子は知らなかったみたいです」


 男は素早く明引呼に近寄って、右手をサッと差し出した。腕につけていたミサンガが少しだけ揺れる。


「初めまして、広家ひろいえ 独健って言います」


 邪神界が崩壊してゆくのをそばで見ていた男の中の一人。そのあと城で何度か顔を合わせた男が変えたといつか言っていた、苗字だった。


「広家って、毘沙門天――っつうか広域天のとこだろ? 息子ってか?」


 純粋な若草色の瞳で、鋭いアッシュグレーのそれをまっすぐと見つめ、さわやかに微笑んだ。


「はい。もう二千年ちょっとになりますが……」


 年齢が二千年代のパパがちょうど三人そろった。


「オレは孔雀大明王だ」


 話には聞いたことがあるが、実際会うのは初めてで、独健は思っていた通りの男だと思い、納得の吐息をもらした。想像していたより、若干目がキラキラと輝いていて、美形だったが。


「あぁ、その節は父がお世話になりました」


 護法童子つながりで、短い間だったが、共に戦った仲間。どこかへ行けるわけでもなく、陛下が力をつけてゆく過程で一緒につどった戦友。話したことも当然あるわけで、明引呼は口の端をふっと歪ませて、


「おう。あれこれ愚痴が多かったぜ」

「はぁ〜」


 独健は握っていた手を力なくはずして、ガックリと肩を落とした。大変な戦いの最中、父が愚痴を他の人に聞かせて、迷惑をかけていたのかと思うと、独健は何と詫びていいのかわからなかった。


 フェントをかけて、パンチしてこない正直な独健に、明引呼は軽いジャブを放った。


「半分ジョークだ」


 カマをかけた明引呼は珍しく少しだけ笑った。あの男は暑苦しいではないが、熱い性格で、憤慨している姿は何度か見たことがあった。どうやら、昔からそうだったらしい。


「愚痴も言いたくなんだろ? 十年間も小せえ神社に閉じ込められて、出られなかったんじゃよ。オレだって言うぜ?」


 しきりと言っていた。左遷どころではなく、監禁だ、不当だと。あの熱い男は何度も激怒していた。独健はひまわり色の髪を困ったように、くしゃくしゃとかき上げる。


「父は昔から、正義感に強い性格でしたから……」


 明引呼の声が黄昏気味にしゃがれた。


ちげえだろ? 人助け――普通のことを普通にしたら、前の統治者が怒って、監禁したんだろ。親父さんに非はねぇだろ」


 熱い男は黙って見ていられなかった。どうなるかわかっていても、彼は手を差し伸べたのだ。間違っていることを止めただけ。誰よりも勇気ある行動を取ったのだ。


 ただ少々文句が多かっただけの話だ、今となっては。もう前の統治ではなく、邪神界もなくなり、過去となったのだから。


 前統治者は地獄へと落ち、罪をきちんと償って、陛下の元で今は謹んで生きている。それをどうこういう権利は誰にもない。


 神様たちの実験だったのなら、なおさら誰の責任とかではないのだ。というか、発案者の神々でさえ、地獄に入って償ったのだ。ここまでくると、誰も文句の言いようがなかった。


 平和になった世界の首都で、貴増参のカーキ色のくせ毛が、窓から入ってきた春風に優しく揺れた。


「独健がここにいるってことは、子供ができちゃったってことですか?」

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