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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
妻の夢1
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踊れ輪になって/2

 目の前の茶色い煙を手で払いながら、少女は夜空を突き抜けるように大声をはじかせた。


「城はハリボテだったっっ!?!?」


 きらびやかな明かりはどこにもなく、真っ暗かと思ったが、ゴウゴウと燃えるオレンジ色のものを見つけた。


「火? どうして、室内に大きな焚き火が!」


 原始的な儀式を行うように、取り囲む王子たちが、炎に照らし出されていた。少女は大きく目を見開く。


「火を王子様たちが囲んでる――これって、キャンプファイヤー?」


 舞踏会の招待はどこへ行ったのだ。ドレスとハイヒール。タキシードと王子様。平常はまだ残されていると、少女は状況修復に着手しようとしたが、宮廷楽団が陽気な旋律を奏で始めた。


「んぁ? この曲はっ!?!?」


 少女は聞いたことがあるメロディーに、自然と体が反応した。右にステップを踏み、地面を蹴り上げる。すると、王子たちも全員踊り出す。


 今度は元の位置へ戻るように、左へステップを踏み、地面を蹴り上げると、中央の炎へ向かって、輪を小さく縮めながら、みんなで歌を歌う。


「マイムマイムマイムマイム!」


 調子をつけるために、手を叩き、また元の位置へと後ろ向きで戻ってゆく。少女は輪を乱さないように、ステップを踏みながら、


「なぜ、王子様に囲まれて――いや違う。王子様たちがキャンプファイヤーを囲んで、マイムマイムを踊ってる輪の中に自分が入っているんだぁ〜〜〜!!」


 彼女の叫びは、宮廷楽団の奏でる音楽にかき消された。しかし、少女は不屈の精神で、ダンスを楽しむ。


「でも、この踊り方なら誰も退屈しなくて、平等にみんな一緒に楽しめるね!」


 逆ハーレムにはやはり協調性が大切なのではないかと悟りながら、少女は踊り続けた。


 しばらくすると曲がふと変わった。どこから持ってきたのか、王子たちの手にはそれぞれグラスが握られていた。談笑をし始めたイケメン王子に囲まれた少女は、焚き火へ視線を移すと、地面に木の枝が差してあった。


「あ、焼きマシュマロだ!」


 あの甘さといったら、トロトロにとろけさせるような魅惑を味覚に刻むのだ。少女は急いで近寄り、地面からお菓子を取り上げた。指先でつまもうとする。


「あちっ!」


 思わず目をつむると、耳を切るような強風が吹き荒れた――。さっきまであった話し声も楽団の奏でるメロディも聞こえなかった。


「え……?」


 少女の瞳に映ったのは、土の上に無残に転がるグラスたちだった。右を見ても、左を見ても、人影どころか、気配もなかった。


「誰もいなくなってる……」


 一人別の世界へと、いきなり連れてこられたようだった。パーティーに何者かが忍んで、招待客が全員逃げ出したみたいだった。


「――愚かな娘よ。わらわにお前も逆らうからだ」


 禍々《まがまが》しい含み笑いが浸食するように響き渡った。声がした方へ顔を向けると、オレンジ色の炎の中から、黒い大きな影が浮かび上がっていた。


 悪魔と対峙するように、少女は表情をこわばらせた。


「このB級映画並みの展開は何!? っていうか、火の中から浮かび出てる? 幽霊とか?」

「そんな下級どもとの見分けがつかぬとは、やはり愚かだ。報いとして、お前に呪いをかけてやった」


「はぁ?」少女はうさんくさそうな顔で、悪魔みたいな黒い影に聞き返した。そして、ダメ出しをする。


「何の呪いかわからないと、恐怖は感じない――」


 彼女がきちんと話をできたのはそこまでだった。体の内側をえぐり取るような痛みが胸からのど元へこみ上げ、思わず咳き込む。


「ゲボッ!」


 唇に当てた手のひらに、生暖かい何かを感じた。それを確かめることなく、毒を吐き出すように、


「ゴボッ! ゲッ、グゥ!」


 血が咳と一緒に出てきて、少女の手のひらはあっという間に赤く染まり、立っていることもできなくなって、土の上に両膝をついて崩れ落ちた。


「ゲオッ、グボッ! ゲボッ……」


 みるみるうちに地面は、どす黒い血でびちゃびちゃと染まってゆく。遠のき始める意識を必死で呼び戻そうとする。


 何がどうなって、こんなことになったのか。これは呪いの仕業なのか。手足が痺れ、少女は地面の上へ横たわる。馬鹿にしたように笑う声が響き、


「お前はそうやって、十七回目の誕生日に、みじめに一人死んでゆくことを繰り返すがよい。いいざまだ」


 吐き出す血ももうなくなり、体は冷たくなってゆく。まぶたは勝手に閉じて、真っ暗になった視界で、あざけ笑う声がけたたましい。


「あはははははっ!」


 死を待つだけの少女は、さっきの話を鮮明に思い出した。震える唇で、息を吸うこともできないまま、土が口の中へ入りながらつぶやく。


「そう……だ。伝え……たいことが……あったのに……」


 そこまでだった、五感が正常に働いていたのは。苦痛からも寒さからも解放された、無重力の宇宙を漂うように、何もかもが無になる。


 かすれてゆく意識の中で、少女は思う――

 いつも、どんな時も、何度でも、私には死がやってくる。決まって、十七歳の誕生日に。そして、何もかもを消し去ってゆく。


 死はいつも突然やってきて、肉体から私を連れ去るのだ。どうしても伝えたいことがあるのに――

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