斬新に盛ってみた
食後のデザートも終わり、夫婦水いらずでお茶を飲んでいると、颯茄が傍に置いてあった紙袋を膝の上に乗せた。
「はい、今日は私からみんなに提案です」
「何だ?」
夫たち全員の視線が妻に集中した。
「初の台本を書いてみました」
焉貴はブボ髪をかき上げて、ナルシスト的に微笑む。
「今や、大人気作家だもんね」
「みなさんのおかげです。『心霊探偵はエレガントに』がギャグ部門とアニメ部門で一位を取りました」
原稿に追われる日々も無事に終わり、颯茄はみんなに頭を下げた。拍手が巻き起こる。
「おめでとう」
颯茄は一息ついて、みんなににこやかな笑顔を振りまいた。
「誰も読まなくても、自分たちは読む、とみんなが励ましてくださったおかげです。信じて書いてきてよかったです」
「よくやった」
再び拍手が巻き起こった。颯茄は天井を見上げて、そっと目を閉じる。
「それから、神様にも感謝です。ありがとうございます」
間に合わないかもしれないと思った日もあった。これでいいのかと悩んだ日もあった。それでもやってこれたのは、みんなのおかげだ。
「で」颯茄は一呼吸おいて、「前置きはこんなところで、みなさんの馴れ初めを物語にしてみたんです」
颯茄は紙袋の中から、冊子の束を取り出し、時計回りで回し始めた。月命はニコニコ微笑みながら、ゆるゆると語尾を伸ばす。
「おや? 僕に聞いていたのは、こういうことでしたか〜」
「そうなんです。みなさんにインタビューをしましたよね?」
「された」
夫たちがそれぞれうなずくと、颯茄は熱く語り出した。
「しかしですよ。そのままの話だと、物語としては盛り上がりに欠けるので、オプションというか話盛りました。今配った台本の最初読んでくれればわかると思うんですけど……」
「どれだ……!!」
台本の擦れる音ばかりになったが、しばらくすると夫たち全員が驚き声を上げた。
「なんて斬新な!」
颯茄は得意げな顔をする。
「そうなんです。私は将来こういうのでもいいんじゃないかなと、思っていたりして……」
「そうなんだ」
妻の一面を新たに見て、夫たちはそれぞれに感じるところがあり、視線をあちこちに向けていた。妻の望みは、この台本に書いてあることらしい。
話が途中のままで、颯茄は仕切り直した。
「それは置いておいて、これ、演じますか?」
「やる」
満場一致で決定。
「じゃあ、撮影もしてもらいましょうか。格安で作ってくださるところ、ネットで見つけたので、申し込んでおきます。スケージュールが決まったら、また連絡しますので、それまでは台本をしっかり読んでおいてください」
「は〜い」
台本を広げて、そばにいる夫たちは近くの誰かと話をし始めた。妻の斜め前に座っていた焉貴が疑問をぶつけてくる。
「これさ、タイトルのままなの?」
「そうです」
明引呼のしゃがれた声が割って入ってきた。
「っつうことは、オレたちが神さまってか?」
「そして、私は人間。神と人間の許されぬ恋! こう悲劇的でいいと思いません?」
颯茄は胸の前で両手を組んで、夢見心地に目を閉じたが、現実主義者の孔明から質問がやってきた。
「こっちの斬新な設定にも悲劇を求めてるの?」
颯茄は目をさっと開けて、あっという間に現実へ戻ってきた。
「まあ、そうです」
そこで、夫たちを見ると、台本から顔を上げて、妻に視線を集中させているところだった。居心地がよくなくなり、颯茄は咳払いをする。
「みんな色々思うところがあるみたいなので、仕上がってから、意見交換でもしますか?」
「そうしよう」
夫たちが全員納得すると、それぞれ椅子を引いて、食堂から瞬間移動で去り出した。




