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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
リレーするキスのパズルピース
184/962

エンドロール/4

 ――――撮影隊は明智家の室内練習場へきていた。コンピュータ制御された部屋で、ボタンひとつで、景気や環境が変えられる。さっきまでは、ブクブクとマグマの海が広がり、今すぐにも崩壊しそうな塔のような大地。血のような真っ赤な空に暗雲。その間をはい回る青白い雷の閃光。だったが、今は晴れ渡る青空と菜の花畑の絨毯がどこまでも広がっていた。


 空中での撮影ということで、颯茄は宙に浮かんでいる。焉貴の螺旋階段を突き落としたぐるぐる感のある声が、超ハイテンションで言ってきた。


「ここも~? っこって、女じゃないんだからさ」


 またキスシーンへの意見。颯茄はバッサリと切り捨てようとしたが、


「ここも同じ理由、さっきと。夕霧さんも腰が重いから――」


 その途中で、焉貴が真っ直ぐ立っていた夕霧命に、ピンクの細いズボンの両足をぴょんと巻きつけた。


「よっ!」


 即座に、まだら模様の声がR17に話を持っていったのだ。 


「あ、ヤバイ! 俺のペニ○当たっちゃってるから、セック○したくなってきた」

「それは、夜になってからにしてください」


 颯茄はわざと丁寧語で言って、取り合わなかった。だがしかし、焉貴先生、食い下がってきた。


「え~? 今させちゃってよ~」


 カメラが回っていて、スタッフもいる場所。確かにここは自宅だ。しかし、この猥褻夫にもまったく困ったものである。颯茄は胸の前でバッテンを腕で作った。


「ダメです~!」


 その時だった。無意識の直感が焉貴に下りてきたのは。さっきまでの、だだこねは急にやめて言うことが変わった。


「じゃあ、お前入れて、今夜11P~」

「またするの~!」


 即座に両腕で覆われる颯茄の頭。夕霧命が拳を握って、唇の前に持ってきて、噛みしめるように笑った。


「くくく……」


 抱きつかれたままの格好で、照明の調整がしばらく行われていた――――



 =監修=

 水色桔梗チーム



 ――――空中庭園のメインアリーナ。エキストラの観客がそれぞれ、ワーワーと騒いでいる後ろの通路で、光命の線の細い体が優雅に佇んでいた。男のスタッフが数メートル先を指差す。


「じゃあ、ひとまず、あの柱まで歩いてください」

「えぇ」


 遊線が螺旋を描く声で短くうなずくと、まるで舞踏会のワルツでステップを踏むように、濃い紫色の細身のロングブーツは歩き出した。颯茄のそばにいたスタッフが小さな声でささやく。


「綺麗な人ですね。いるだけで絵になりますよ」

「いかがですか?」


 柱に到着した光命は、思わず釘付けになるような仕草で振り返った。光命ひかりいのちの颯茄は大きく頭の上で、丸を作った。そして、立て続けに興奮気味に話し出す。


「オッケーでーす! 光さん、やっぱり表舞台に立った方が――」


 この男はピアニストだ。人前に立つ職業。もったいない。人々を感動させるような秀麗さを持っているのだから。だがしかし、紺の長い髪はゆっくり横に揺れた。


「あなたと愛を深めてから、あなたと一緒に音楽活動をすると決めています。ですから、そちらまでは、あなたと過ごすことだけをします」


 いつまでも色褪せない恋に落ちた颯茄と光命ひかりのみこと。どんな時も一緒に過ごしたいがために、一緒に仕事をする約束をしている――――



 =演出=

 婿養子プロジェクト



 ――――遊園地前のベンチに座って、演技の最終チェック中。自身の気持ちを偽らないと決めた光命が、一言ずつ言いながら、夕霧命の愛している部分をタッチしてゆくという場面。


 夕霧命の無感情、無動のはしばみ色の瞳は不思議そうに、颯茄に向けられた。


「なぜ、こんなに光が俺を触る?」


 頭から足まで全部触るところ。颯茄はニヤリとして、密かに光命の性癖を暴露した。


「それは、光さんがスーパーエロだということと、演技を抜きにしたとしても、光さんが夕霧さんをセクハラしたいのではないかと思って……」


 光命は細く神経質な手の甲を中性的な唇に当て、肩を小刻みに揺らしながらくすくす笑い出した。


「セクハラ……」


 颯茄の言葉のチョイスが笑いのツボにはまったらしい。だがしかし、夕霧命の地鳴りのような低い声がこんなことを言ってきた。


「俺が我慢できん」


 颯茄が間の抜けた顔をすると、


「え……?」


 白の袴の袖が、光命をぐっと抱き寄せ、くすくす笑っていた優雅な王子夫は、まるで恋に落ちてしまったお姫さまみたいに瞳をウルウルさせた。


「夕霧……」

「光……」


 お互いの名前を呼び合って、ベンチの上に夕霧命が光命を押し倒した。颯茄は座っていた椅子から慌てて立ち上がって、両腕を頭の上で左右に大きく振って、大声で叫んだ。


「いやいや、画面から消えるのやめてください!」


 盛り上がってしまった夫ふたりへ急いでかけてゆく、颯茄の靴底がパタパタとカメラに映っていた――――

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