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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
リレーするキスのパズルピース
182/962

エンドロール/2

 =出演者=

 夕霧命/明智 夕霧命

 光命/明智 光命

 蓮/明智 蓮



 ――――焼けるような夏風が吹くたびに、砂埃が舞い上がり、農園の木々がザワザワと音を立てる。仕事はいつも通り進んでいる。そこを借りての撮影。


 農園の本当の主――明引呼は台本から鋭いアッシュグレーの眼光を上げた。


「っかよ、野郎どもの見てる前でキスすんのかよ?」


 公私混同もいいところである。だがしかし、颯茄はノリノリで、もっともらしい理由を口にする。


「農場の場面は、ここしか出ないので、是非ともこの場所で……お願いします」

「しょうがねぇな」


 情に熱い明引呼、納得して、再び台本を読んでいたが、ある場面に出くわして、気だるそうな声を出した。


「……あぁ? 俺がたかの胸ぐらつかむってか?」

「お願いしま~す!」


 颯茄は手を大きく上げて、ひらひらと振った。自分の夫に喧嘩をふっかけるみたいなシチュエーション。明引呼は当然、貴増参の身を案じた。


「貴、倒れんなよ」

「倒れたら倒れたで、オッケーで~す!」


 颯茄は今度は両腕を上げて、思いっきり笑顔で頭の上で丸を作った。古びたウッドデッキに夫二人を倒して、キスをする。意味不明である。


 ウェスタンブーツのスパーがカチャッと言って、近くにあった丸テーブルの足を、ガツンとひと蹴りした。


「颯、てめぇ、自分はしねぇからって、無理難題押し付けてやがんだろ?」


 颯茄はいつも絶対そんな笑顔しない。というような顔で、こんなふざけた口調で話し出した。


「そんなことないっすよー。是非とも、貴増参さんと明引呼さんの素晴らしいキスシーンのためにと考えた演出でーす!」


 台本を持っていた腕を、明引呼はだるそうに椅子から落とした。


「よくも、でまかせが出てくんな。次から次へとよ」


 そこで、カメラの後ろに、立っている銀の長い前髪に振り返った。


「おう! 蓮どっなってんだ? 最初に結婚したんだろ」

「俺に聞くな」


 蓮は一瞥いちべつしただけで、バッサリと切り捨てた。颯茄の暴走が面倒くさなってかかわりたくなかった――――



 =出演者=

 颯茄/明智 颯茄



 ――――さっきと場面は一旦切り替わった。だがしかし、カメラの位置も、背景も相変わらず夏の濃い青空。熱風が吹き抜ける農園だった。けれども、兄貴のカーボーイハットのすぐそばに、白い薄手の着物が天女のように立っていた。


「っつうか、孔明ともかよ?」


 兄貴としては頭が痛い限りである。ここは仕事場であって、プライベートでは決してない。野郎どもに夫夫のキスを見せるつもりなど、つゆひとつもないのだ。


 漆黒の長い髪は指先ですーっと引き伸ばされて、孔明の陽だまりみたいな穏やかな声ではなく、全然違う、冷たく刺すような響きが聞こえてきた。


「《《俺》》はどこでもいいけど……」


 それまでのシーンを撮っていた明引呼は、即行ツッコミを入れた。


「孔明、キャラ変わってんだろ? 《《ボク》》だったろうが。《《俺》》って言うんじゃねぇよ」


 先の尖った氷柱がおでのあたりから、あちこちに出て、刺し殺しそうな雰囲気で、孔明は紫の扇子でパタパタとあおいだ。


「この役だったら、《《ボク》》で、かなぁ~? がいいと思ったから、そうしただけなんだけど……」


 藤色の剛毛は背後にあるカメラの方へ振り返って、


「焉貴じゃなくて、こっちを一人称、ごちゃ混ぜにした方がいいかもな」

「次回の参考にさせていただきます」


 カメラの後ろの方から、颯茄のガッテン承知みたいな声が響き渡った――――



 =出演者=

 百叡/明智 百叡

 張飛/明智 張飛



 ――――姫ノ館の中庭。ひとつのベンチに男三人が座っている。右から孔明、月命、焉貴。メイクの女に漆黒の髪を直されている孔明が、瑠璃紺色の瞳に月命のパルテルブルーの服を映した。


るなす~? そのドレスは自分の~?」


 ピンクのリップを塗られていた月命は、極力口を開かないようにする。


「いいえ、違います~」


 シャツのボタンを第一だけで止めるか、第二で止めるかを話し合っているスタッフの横で、焉貴がまだら模様の声を響かせた。


「どうしたの?」


 メイクの女がいなくなった真正面に、月命は両手の甲を同時に上げた。それは、綺麗ではあるが、誰がどう見ても男の骨格。


「僕はこう見えても、どこからどう見ても男性の線を持つ体なので、みなさんが作ってくださったんです」


 シンデレラが履いていたとされるガラスの靴。本物。孔明がかがみ込もうとしたが、メイクの人に捕まえられた。


「靴もそうなの~?」

「えぇ」


 月命。この男が女装するようになったのはつい最近。夫ふたりの興味は、俄然そこに向かった。どこかいってしまっている黄緑色の瞳は、マゼンダ色の頭を見つめた。


「その、ティアラはどうしちゃったの?」


 ニコニコ笑顔で、月命はティアラを大切そうに触る。


「これは娘が貸してくれたんです~」


 焉貴は人差し指を向け、


「パパ、娘から借りちゃったの」


 反対側で、孔明が小さく何度もうなずいた。


「だから、サイズが小さいんだね」


 三人のパパの上を桜の花びらが、春風に乗せられて横へ横へ流れてゆく。微笑ましい会話が小学校の教室から聞こえてくる生徒の声と混じり合った――――

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