発展途上の完成品/7
だがしかし、夫九人もいれば、やはり意見の違う人もいる。光命は紺の長い髪を横へ揺らして、こんなことを言う。
「私は構いませんよ」
「そう? 光も? 俺もさ、三百億年生きてるから、結構平気なんだよね。こういうこともあるんじゃない? って感じでさ〜」
焉貴もまだら模様の声で賛成。ということで、このふたりはすでに、恋に落ちているのだ、孔明の策通り。
「とにかく、家族会議だ」
幼い頃から明智家で育ってきた蓮が仕切った。
颯茄は何事もなかったかのように、パチパチとキーボードで文字を打ち始めた。焉貴のどこかいってしまっている黄緑色の瞳がのぞき込む。
「今、何書いてんの? あの十七禁、どうしちゃったの?」
少し文章を読んだが、つい最近までノリにノッて書いていた物語と中身が全然違っていた。颯茄としても、それは不本意なのだ。だが、自分だけではどうすることもできなく、文字を打ち込み続けながら、夫の質問に真面目に答えた。
「あれは、休止中です。だって、書いているうちに、みんなどんどん結婚しちゃって、登場人物が増えすぎちゃって、独健さんが入らなくなってるんです、今……。最初三人だけだったのに……九人になっちゃって……」
それは無理がある。三倍に膨れ上がってしまったのだから。三人のままでよいのではと意見もあったが、颯茄はやはり愛しているのだ、夫たち全員を。だから、九人とも登場させたいのである。
こうして、颯茄は書けなかった悔しさを、語り口調というものに変えて、十七禁ということもあり、彼女の性癖が大暴走し始めた。
「当初の目的は、みんなの神がかりなペニ○を、みなさんにぜひご披露したかったわけです〜。蓮のそれはいや〜ん! とか、光さんのどこまでいくんですか〜! みたいなのとか、夕霧さんのマジですか! とか、焉貴さんのうほぉ〜っ! ってやつとか、月さんの、そんなのあるんですか〜! みたいなのとか、孔明さんの何人相手できるんですか〜! とか、明引呼さんのそれは反則っす! みたいなやつとか、貴増参さんのあぁ〜、それ気持ちよさそうですよね〜とか、独健さんのわおっ! みたいなのを伝えたかっ――」
完全に颯茄は壊れていた。文書ソフトのページヘッダの文字を焉貴は見つけて、健全な世界へ颯茄を呼び戻した。
「リレーするキスのパズルピース……? パズルピースって俺たちのこと?」
「そうです。みんなが合わさって、ひとつのパズルになる! でもって、まだまだ増えるので発展途上の完成品!」
颯茄は親指を立てて、珍しく嬉しそうに微笑んだ。その指先を、焉貴は両手で包み取って、教師らしく仕切った。
「はい! じゃあ、今回の授業はここまで!」
颯茄がカメラ目線になり、
「それでは、チャオ!」
バイバイと手を振ると、夫八人が彼女の近くに顔を寄せ、夫婦九人の集合写真のようになった。だが、一人欠けている。
颯茄が慌てて携帯電話の画面に映っている孔明を前に押し出すと、白の薄手の着物はゆらゆらと揺れ、天才軍師は紫の扇子を口元に当てて微笑んだ。
そして、夫婦十人一緒で画面がいっぱいになると、すぐにそれは真っ暗になり、エンディングテーマであるR&Bのバラード曲が流れ出した――――




