発展途上の完成品/6
自信満々に答えた男。颯茄は頭を抱えて、机の上――いやPCの上に突っ伏した。
「はぁ〜……」
妻にはよく知った名だった。だがしかし、世界は広いし歴史も長い。夫たちは誰も知らないようで、顔を見合わせた。
「誰だ?」
「どのつながりだよ?」
「誰、プロポーズしたの?」
颯茄は沈んだリングからガバッと起き上がり、夫たちが知らないと言う事実にびっくりして、叫び声を上げた。
「えぇぇぇっっっっっ!?!?!?!?」
何が起きても全然平気な焉貴先生が、まだら模様の声で聞いてきた。
「何? お前、そんな大声出して……」
颯茄はそんなことはお構いなしで、まだまだ興奮中。
「いやいや! ひとりしかいないじゃないですか〜っ!!!! 張飛さんって言ったら……」
そこで、光命の遊線が螺旋を描く優雅で芯のある声が冷静に響き渡った。
「颯、あなたに電話です」
颯茄が見ると、そこには数年前、五歳の弟――帝河が自身も携帯電話を買ったからと言って、プレゼントしてくれたものがあった。
それは今、こんな状態になっている。電子音を発しながら、机に垂直に立ち、右に左にノリノリでステップを踏み、くるっとターンをし、また踊り出す携帯電話。颯茄は驚くこともなく、ボソッとつぶやいた。
「ダンシングモードまだ解除してなかったんだ……」
踊っている携帯電話をパシュッとつかみ、颯茄は耳に当てた。
「もしもし……」
向こうから返ってきたのは、好青年でありながら、陽だまりみたいな穏やかさのある男の声だった。
「は〜い! ボク〜、張飛きた〜? 呼んだんだけど……」
鍵を他人に渡した上に、罠をサクッと仕掛けておいて、しかも抜群のタイミングで電話をかけてくる。天才軍師に、颯茄の怒りはとうとう大爆発した。
「孔明、きたじゃないわっっっっ!!!!」
「だって、誰も知らないみたいだったから、どうしようか悩んでたの〜。まずは会ってみないとと思って、ボクがいない時に、家にきてもらったんだよね〜」
孔明に好きな男がいると言うのは、みんな聞いていた。しかも、何だか本人が悩んでいる様子なのも知っていた。だが、こんな形で会うとは思っていなかった、全員。この天才軍師に、してやられたのである。
保守派の三人がため息をついた。針のような銀の長い前髪を、蓮はあきれたように横にサラサラと動かす。
「俺はもうついていけない」
その隣にいた夕霧命の切れ長なはしばみ色の瞳は、あきれたように閉じられた。
「俺もだ」
女装する小学校教諭という斬新な仕事をしているが、月命はいたって保守的な男であり、人差し指をこめかみに当てて困った顔をした。
「僕もです〜。一ヶ月もたたないうちに、増えていくんですから〜」
するかどうかは別である。知らない男と結婚する人がどこにいるだろうか。だがしかし、颯茄は念のため聞いてみた。
「張飛さん、ちなみに誰か他に好きな人はいますか?」
「今のところはいないっす!」
明引呼は安堵のため息をついた。
「なら、まだ安心だな。誰かが結婚すっとよ、そいつが他の誰かに惚れてんだよ。でよ、また結婚するからよ、終わりがこねえんだよ」
「無限増殖。いわゆる、無敵です」
ゲームみたいなことを言った貴増参のカーキ色をしたくせ毛の隣で、独健は頭を抱えた。
「俺、まだ慣れないんだよな……。十人でも手が一杯なのに……。俺の安泰は、明智家に婿にきた時点で、なくなったのかもしれないな」




