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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
リレーするキスのパズルピース
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発展途上の完成品/1

 花びらが降っている間、ドラムや他の楽器が鳴り続け、ディーバやコーラス担当の人々が手を振り続けていた。それに振り返す観客たちだったが、お辞儀を何度もして、主役のアーティストがステージの端に少しずつ寄ってゆく。


 そうして、百九十七センチのすらっとした体躯が舞台から消えると、女性の声でアナウンスが入った。


「それでは、ここで休憩時間が三十分入ります」


 いつの間にか、ファミリー席の家族たちも総立ちとなっていて、みんなそれぞれの椅子に座り直した。颯茄がスカートの裾を直そうとすると、ポケットの中の携帯電話が振動した。


「あれ? 誰からだろう?」


 取り出して画面を見つめると、彼女はドキっとした。出版社からだった。


「え、何かあった!?」


 休憩時間のコンサート会場。そのまま通話にして話し出した。


「お疲れ様です。どうかしたんですか?」


 子供たちの頭をなでながら、相手の話を聞く。


「はい。はい。あぁ、そうですか。わかりました。時間は? ……一時間ですね。間に合わせます」


 携帯電話を切った颯茄に、光命が話しかけた。


「どうかしたのですか?」

「どうしても修正しなくてはいけない箇所が出てきたので、自宅に一旦戻ります」


 颯茄は脱いでいた上着を手にして、帰り支度を始めた。光命は息子を膝の上に乗せながら、


「いつごろ戻るのですか?」

「できれば、三十分以内に戻りたいですけど、一時間かかるかもしれないです」


 大掛かりな変更を余儀なくされて、コンサートを再び楽しめるかはわからない。百叡が顔をふと上げた。


「ママ、お仕事?」

「そう。百叡はパパの膝の上でコンサート見てられる?」

「うん、平気!」

「じゃあ、みんな行ってきます」


 颯茄は言い残すと、瞬間移動ですっと消え去った。


 ガヤガヤと熱気の収まらないコンサート会場で、声がかき消されないように、百叡は大きな声で話しかけた。


「パパ、行かないの?」

「行きませんよ。あなたとの約束があるのですから」

「でも、僕なら待ってられるよ。ママ久しぶりに帰ってきたから、パパふたりで会いたいでしょ?」

「あなたが気を使うこと――」

「行ってこいよ。パパはひとりじゃねえんだからよ」


 光命をの言葉をさえぎって、彰彦のしゃがれた声が響いた。貴増参がその隣でにっこり微笑みながらしっかりうなずく。


「僕たちが全員いなくなったとしても、保育士の方がいますから安心です」

「そうですか」


 光命はそれでも足が鈍った。約束は約束。守らなくてはいけない。そんなパパの気持ちを知って、百叡がピンクがかった銀の髪を揺らして、もう一度背中を押した。


「パパ、行ってきて大丈夫」


 パパとママが仲がいいのは、百叡はよく知っている。久しぶりにママは家に帰ってきた。自分も会いたいが、パパはもっと会いたいのだとわかっている。


「それでは、行ってきますよ」


 光命は優雅に微笑みながら、コンサート会場からすうっと姿を消した。


 銅色の懐中時計を取り出して、孔明は聡明な瑠璃紺色の瞳に映す。


「ボクはふたりの時間を邪魔しないように、十三分十六秒後に行った方がいいと思うけどなぁ〜」


 明引呼はあきれたため息をついた。秒単位まで指定する、策士のプロ中のプロを前にして。


「てめえ、どうやって計算してんだよ?」

「それは企業秘密〜!」


 孔明は春風みたいに微笑んで、白の着物はさっと立ち上がった。


「ボクはこれでいなくなるね」


 まだコンサートの途中なのに、どこへ行くつもりなのか。子供を肩車していた貴増参は孔明の凛々しい眉を見つめる。


「今日もパーティーですか?」

「そう。ボクの公演を主催してくれた人のパーティーだからね、主役が行かないわけにはいかないでしょ?」


 講演だけすればいいのではない。大先生もいろいろ大変。迎えてくれる人がいるからこそ、自分の仕事は成り立っている。それならば、それに応えなくてはいけない。付き合いというものは大切だ。


「帰りは何時だ?」


 独健からの質問に、孔明の様子がなぜかおかしくなった。甘々の声で語尾が疑問形に激変。


「明日だったかなあ〜? それとも、今日かなあ〜?」


 独健はけげんな顔に変わった。


「珍しいな。お前が曖昧な言い方するなんて」


 それには何も答えず、孔明はシルバーのブレスレットをする手を横に振って、


「じゃあね、バイバ〜イ!」


 エキゾチックな残り香を残して、瞬間移動で消え去った。ボックス席から下を眺めていたヴァイオレットの瞳には、他の客たちが思い思いの休憩時間を過ごす、ザワザワとしている様子が映っていた。


「おかしな感じがしますね〜、孔明は……」

「また、独健でも引っ掛けてんじゃないの?」


 焉貴はそう言って、床に散らばっている花びらをパッとつかみ、自分の上へ投げ、再び色とりどりのシャワーを浴びた。

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