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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
リレーするキスのパズルピース
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パズルピースの帰宅/6

「僕にはわかりませんよ。ですが、学校の正門を出たところで、どうしても、僕にキャンディーを渡したいとおっしゃった男性がいらっしゃったので、いただいてきたんです〜」


 キャンディーを親指の爪でポーンと上に弾き上げて、焉貴は口の中へポンと入れた。


「会ったことあんの〜? その男と」


 月命は人差し指をこめかみに当てて、困った顔をする。


「それが、どちらでも会ってないんです〜」


 明智家の玄関に、大人全員の盛大なため息が響き渡った。


「また知らない人からもらってきて……」


 そこで、独健の鼻声が再び玄関ホールに炸裂した。


「あっ! 俺、弁当箱、持って帰ってくるの忘れた」


 貴増参にコンサート会場の裏に呼び出され、親切な人が届けてくれたお弁当。行方不明のままであった。ネットも万全なこの世界、探せばどんなに遠くの情報であろうと、一括で出てくる。だがしかし、時間は少々かかる。


 ということで、魔法使いである、蓮が口を挟んだ。


「いい。俺がやってやる」


 指先を軽く上げただけで、黄色のお弁当箱が独健の手の中にやってきた。結び目は誰か女性が直したみたいに、綺麗になっている。それを見て、子供たちから拍手喝采が起こった。


「うわ! 蓮パパの魔法すごい〜!」

「サンキュウな」


 一度まで、いや二度までも、世話になった独健は、さわやかに微笑んで素直にお礼を言った。だが、蓮の態度はそっけないものだった。


「ん」


 妻の手に渡されたお弁当は重みがあった。


「あれ、食べなかったんですか?」


 せっかくの愛妻弁当がそのまま戻ってきた。独健は気まずそうな顔をして、途切れ途切れで言葉を紡いだ。


「あ、あぁ……ちょっとあってな」

「お腹すかなかったんですか?」

「あ、い、いや……それは……」


 独健の困っているのを不思議そうに見ていた颯茄だったが、急に口の端でニヤリをした。


「むふふふっ」

「何だ、その含み笑いは。お前まさか!」


 独健のはつらつとした若草色の瞳が大きく見開かれた。


「独健さんのお腹を満たしたのは、お花畑でランララ〜ン♪庵の限定五個のどら焼きで〜す!」

「な、何で知ってるんだ? お前、今日仕事だったんだろう? 締め切り前でホテルに缶詰で……」


 確かに妻はホテルに缶詰だったが、ずっとだったわけではなかったのだ。


「私が午前中、コンビニに行った時、知らない女の人が私にどら焼き二個渡してきて、聖輝隊の火炎不動明王さんに届けてくださいって、言われたんです」


 月命が何人か途中を経過したと言っていたが、そのひとりが自分たちの妻とは。独健はげんなりとした。


「世の中狭いんだな。うちの奥さんを経由したなんて……」


 もう隠し事はない。独健は堂々と颯茄に話しかけた。


「颯茄、ところでだ」

「どうしたんですか?」


 重みのあるお弁当箱を、瞬間移動で一瞬にして台所へ飛ばした彼女は、独健の顔をじっと見つめた。


「どうして、俺の弁当だけ、お前が手を加えるんだ?」

「みんなのは好物は私が入れてます。でも、独健さんがほとんど自分作ってるじゃないですか」

「そうだな」

「それじゃ、ふたを開けた時の驚きがないと思うんです。だから、独健さんのだけ私が盛り付けるんです」


 妻なりの思いやりだったが、独健には少々迷惑だった


「だからって、ハート型はないだろう。職場で冷やかされるんだ」

「じゃあ、L・O・V・Eにします」


 颯茄はニヤニヤしながら、ガッツポーズを取った。


「いやいや、形が文字になっただけだろう!」

「あははははっ……!」


 夫たちから笑い声が上がると、珍しく姿を現したヴァイオレットの邪悪で誘迷な瞳は、瑠璃紺色のそれを真っ直ぐ見つめ返した。


「孔明、僕と服はどちらが素敵なんですか?」


 お昼に焦らされて、孔明に去られた月命としては気になっていたのだった。白い薄手の着物は艶めかしく揺れて、好青年で陽だまりみたいな顔で微笑む。


「どっちも! だけど、月の方がずっと素敵かなぁ〜?」

「うふふふっ」


 愛する夫に言われたら、いくら邪悪な月命でも、思わず笑い声をもらすのだった。


 月命の凜として澄んだ女性的でありながら男性の声が、気になるもうひとりの名を呼ぶ。


「光?」


 組まれていた濃い紫のロングブーツが、まるで舞踏会のワルツでターンをするように、若葉色の絨毯に優雅に下された。


「えぇ」

「昼間、小学校の講堂にきていましたが、僕に会いにきてくれたんですか?」


 夫が愛する夫に会いに行く。そんなことも起きるかもしれない。こんなに仲がいいならなおさらだったが、光命は無情にも紺の長い髪を横へ揺らした。


「いいえ、違います」

「じゃあ、ボク〜?」


 孔明と光命。塾の講師と生徒の関係だったが、今では夫夫。愛をもって講演を聞きに行ったということもあるかもしれない。だがしかし、光命は冷酷に紺の長い髪をまた横へ揺らした。


「そちらも違います」


 焉貴が脇から顔をのぞかせた。


「お前、何しに行ったの? 昼間の学校に」


 一歩間違えば不審者である、他の先生や生徒から見れば。外部の人が入ってきてはいけないはずの、小学校の講堂に突然、瞬間移動してきたのだから。

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