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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
リレーするキスのパズルピース
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パズルピースの帰宅/4

 何が起きても、ある意味落ち着いている貴増参は、あごに手を当て、ふむとうなずく。


「孔明と月は今日も、身を焦がすほどの愛の業火に包まれちゃいました。僕も一緒に燃えたかったです」


 意味不明なボケが前で展開されていた。だが、そんなことよりも、ひまわり色の髪を持つ人は別のことが気にかかっていた。石畳に寄り添うように置かれた灯篭とうろうの光にほのかに照らされている独健は、隣にいる人気アーティストの身を心配する。


「蓮はいいのか? 戻らなくて」


 スタッフに言われた時刻は、十七時五十分に戻ってくるようにだった。まだ時間はある。それよりも、今別の男とキスに夢中な紺の長い髪を眺めて、蓮の奥行きがあり少し低めの声が正直に言った。


「光に戻るように言われた」

「そうか」


 一度うなずいた独健だったが、風にそよそよと揺れる笹に険しい顔を向けた。


「ん? 何か嫌な予感がするな、それって……」


 違和感。いや、ただの違和感ではない。震撼しんかんさせるがごとくの身震い。それを見極めようと、感覚の独健、めちゃくちゃにしまわれている記憶の引き出しをかたっぱしから開けようとした。


 だが、一足遅かった。冷ややかに重厚感満載で、阻止がかかったのである。それは、凛とした澄んだ丸みがあり儚げな女性的な声。しかし、誰がどう聞いても男性のもので、殺戮さつりくまがいな響き。


「僕のセリフです〜。独健は黙っててください」


 月命。この男の怖さは知っている。教師としては、模範のような優しい先生。だがしかし、大人に対しては、真逆と言ってもいいほどの男――いや夫。


 独健は顔が引きつりながら、警告する鐘をカンカンカン! と叩くように、心臓がバクバク言い始めた。


「いや、月が言うと、余計嫌な予感がするんだが……。策略とかしてくる気じゃないだろうな?」


 光命と夕霧命のキスが終わり、夫たちが玄関の中に吸い込まれ始めた。月命は恐怖も裸足で逃げ出すほどの含み笑いをして、マゼンダ色の長い髪を否定という動きで横へゆっくり動かす。


かんぐりすぎですよ〜。夫夫間で、そのようなことはしませんよ〜。僕もそこまで無慈悲で残酷で冷酷で無情で無感情で非道で……」


 夫全員が玄関ホールの応接セットに座り、お茶が出てくるまで、月命の戦慄まじりな言葉が平和な我が家を凱旋がいせんし続けていた。


「……ではないです〜」


 白い手袋を脱ぎながら、独健は極めて聞こえないように言ったのだが、


「お前、本当に邪悪だな。そんな言葉がいくつもすぐに出てくるんだからな」


 地獄耳の月命には聞こえてしまった。まぶたから解放された極悪非道なヴァイオレットの瞳。お茶を一口飲んで、月命は目は笑ってないのににっこり微笑む。


「おや? 何か言いましたか〜?」


 独健のひまわり色の髪まで、恐怖で青ざめたような気がした。小さくプルプルと横に震える。


「お前のその笑顔、すごみがあるからやめろ! 歴史の先生じゃなくて、お前自体が歴史になるくらい生きてるから、怖すぎるんだ!」


 お茶の中に浮かべられた桜の花びらを指先でいじりながら、焉貴の螺旋階段を突き落とされたぐるぐる感のある声が同意した。


「まあ、そうね〜。俺も昼休みに生徒に、歴史の先生になればよかったのにって言われちゃったしね」


 自分の帽子を子供にかぶせて、明引呼はアクセサリーの貴金属類がすれる音を歪ませる。


「てめえらふたり、長生きしすぎなんだよ。三百億年も生きやがって」


 白の手袋に小さな手が通されて、開いたり閉じたりをしている隣で、貴増参の羽布団みたいな声がボケをかましてくる。


「素晴らしいです。様々な時代を見てきた。僕も目からうろこを脱いじゃいます」

「それは、脱帽――」


 独健が突っ込もうとしていたところで、地獄からの招待状のような含み笑いが、月命から聞こえてきた。


「うふふふっ。僕の本当の年齢を言った独健には、今日もお仕置きです〜」


 子供たちが遊びまわる平和な玄関ホール広がっていたが、明引呼だけはしっかりと心の中でツッコミを入れた。


(俺だろうがよ、言ったのは。てめえの年齢が三百億年ってよ。その特異体質で、ナイスに話すり替えやがって)


 自分の望んだ通りに物事が動いてゆく、月命。強引に話の流れを変えようが、気づくはずがない、他の誰もが。策という恐ろしい罠が水面下で引き返せないほど繰り広げられているとも知らず、はつらつとした若草色の瞳の持ち主は、自分なりに月命に抵抗してみた。


「今日はその手には乗らない。俺は貴に予約済みだから」


 限定どら焼きを分けた代わりのご褒美。それが独健という男への予約なのだ。明引呼のアッシュグレーの鋭い眼光は、マゼンダ色からひまわり色に密かに移った。


(独健、てめえ毎日、月の罠にはまってんだよ。そろそろ気づきやがれ)


 たまには勝つこともする月命策士は、こうやって話を持っていった。


「それでは、割り込み予約ということで、《《三人で》》にしましょう」


 策士の頭の中ではすでに計算済み。そのため、ヴァイオレットの瞳と瑠璃紺色のそれは一瞬、ほんの刹那交わっただけだった。


(孔明、昼間、約束したお仕置きの罠を今しかけましたから、仕上げをお願いします〜)


 独健は何もしていないのに、お仕置きをされるという、悲惨な運命にあった。兄貴の足が直角に組まれると、スパーがカチャッと鳴った。


(話、強引に持っていきやがって。がよ……)

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