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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
リレーするキスのパズルピース
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同僚と恋人/1

 空中庭園にある多目的大ホール。地球と同じ広さのある場所。座席数は約一億。だが、まだそこは空席ばかり。人が何人か座っているのは、ステージから少し離れた真正面だけ。


 照明の手直しがされている中、R&Bというリズムに乗り、奥行きがあり少し低めの男の歌声が、バックバンドが演奏する曲に乗っていた。


「♪〜〜♪〜〜」


 リハーサル中。中央に立っていた男は、最低限の筋肉しかついていないすらっとした体躯。右に左に軽めにステップを踏んでいる。だが、天使のように可愛らしい顔がふと歪んだ。


 結婚指輪をする左手を大きく上げて、左右に何度も揺らす、音楽を止めろという合図だ。本番と違う、動きやすさと清潔さを表す白のスニーカー。その前にある大きな四角い箱。モニタースピーカーのひとつを指差し、そばに控えていたスタッフに調整を伝えた。


「右のスネアの音が小さすぎる」


 スタッフの視線と一緒に、鋭利なスミレ色の瞳は、会場の中央にある制御室に向けられた。とにかく、地球一個分の会場。瞬間移動という手もあるが、やはり連絡手段は意識化でつながる携帯電話。


「OKで〜す!」


 すぐにミキサーをいじった向こうのスタッフから報告がきたようで、そばに控えていたスタッフの声が気さくな感じで響いた。左耳にいつもつけている、叡智の意味を持つエメラルドグリーンのピアスが、ステージ後方に振り返った。


「Bメロから」


 ドラムのスティックがカンカンカンと鳴らされ、カウントが入るとすぐに、望んだ通り曲の途中からスタート。今日の主役。ディーバ ラスティン サンディルガーは振り付けされたバックステップを右に左に踏む。その度に、針のような輝きを放つ銀の長い前髪が揺れ動く。


 また、左手がさっと上がった。横に大きく揺らし、演奏が止まる。白のシャツは首元が幾重の楕円を描く洗練されたデザイン。右斜め上から左下へファスナーの入ったファッションセンス抜群のもの。足元はグリーンの細身のズボン。


「サビだけ、リバーブ強めで……」


 納得がいくまで、時間が許す限り、調整し続ける。今日を楽しみにしている人たちの心に真摯に応えるために――


    *


 そんなことが行われているステージへと続く廊下で、大革命が起きていた。歩いていたスタッフのラフな格好の横を、貴族服が堂々と通り過ぎてゆく。慌てて振り返った二本足の猫は大声で呼び止めようとした。


「ちょっと、関係者以外――!」


 だが、それが誰だかわかると、弓なりの瞳を大きく見開き、思わず息を飲んだ。腰を低くして、右手をその人の行く先に差し伸べる。


「ど、どうぞ……」


 ちょうど十字路になっていた廊下の左側から、すうっと浮遊してやってきた龍の女性は、貴族服の後ろ姿を見て首を傾げた。


「え? どういうことですかね?」

「何か法律違反でもしたとかですか?」


 かぎつめのついた指先で、猫は頭の上をポリポリとかいた。事件の匂いが思いっきり漂っていた、コンサート会場のリハーサル時間に――


    *


 目がくらむほどのライトがついているステージ上。今は曲は流れてはおらず、中央にスタッフの何人かとディーバが演出上の打ち合わせをしていた。


「そうだ。四拍目で、俺がする」


 アーティス自身が何かをする。犬のスタッフががっつり天井が広がる多目的大ホールを見上げて、こんな疑問を投げかける。


「それって、上から降ってくるってことですか?」

「そうだ」


 愛想など不要と言わんばかりの超不機嫌顔なディーバ。太陽が東から西へ登るように当然だと言い切った。何かが上から降ってくる。天井しかないのに。今度は、人の男が不思議そうな顔をして聞く。


「どこから持ってくるんですか?」


 ディーバの鋭利なスミレ色の瞳は微動だにせず、表情も何ひとつ変わらず、どこまでもどこまでも沈黙が続いていた。


「……………………」


 まわりに控えていたスタッフたちも、楽器を持ったバックバンドの人たちも、全員、頭の中がこうなった。


「?????」


 だが、個性の強いアーティスト。他の人の反応など、どこ吹く風で、繊細な指先を綺麗な唇に当てて、まだまだ考え中。


「……………………」


 さすがにしびれを切らした恐竜のスタッフが、鋭利なスミレ色の瞳が見つめているだろう視線の先で、意識を呼び戻すように手を横に振る。


「あ、あの……ディーバさん?」


 ディーバにとっては別世界へ行っていたわけでもなく、普通にタイムアップを言い渡された。そして、彼はまわりのスタッフを見渡す。


「わからない」


 散々待ってみた、挙句あげくの答えがこれ。スタッフ全員が、道端みちばたに落ちているバナナの皮でも踏んだようにズルッとこけた。最初に話していた犬のスタッフが少し苦笑いして、みんなが心配していることをもう一度口にした。


「……あぁ〜、そうですか。花屋から勝手に持ってくるとかじゃないですよね?」


 ディーバは両腕を腰の低い場所で組んで、白いスニーカーは床の上で気まずそうに右へ左へ動いた。


「それは違う……はずだ」


 不確かなことを、どうやってもゴーイングマイウェイで無理やり確定したみたいな言い方。スタッフは頭痛いみたいな顔をして、強行突破しそうなアーティストに、世の中の物流を説明した。


「花屋から持ってきてもらうと、今からでは準備は間に合わないので……」


 天使のような綺麗な顔なのに、超不機嫌なおかげで台なし。だが、秀麗なそれは、今度は怒りで歪んだ。


「いつもしているから、大丈夫だ」


 提案者のアーティストに言い切られてしまった。何かの方法がどうやら普通のことではないらしく、犬のスタッフが確認を取ろうとした。


「じゃあ、それ、今もしてもらえますか?」

「必要ならす――」

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