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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
リレーするキスのパズルピース
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先生と逢い引き/5

 小学生は今授業中。だが、生徒が向こうにいる。男は先生らしいが注意もしておらず、孔明は視線を戻し、隣にたたずむ人に問いかけた。


「あちらにいらっしゃる先生は、小学校の先生ですか?」


 ニコニコの笑顔のまま、月命は首を横に振って、マゼンダ色の髪をまとめているリボンを揺らす。


「いいえ、違いますよ。高等部の教師です」


 女子高生に囲まれた、男性教師。プレゼント攻撃にあっているようで、バンバン物が先生のほうに差し出されているのが、離れていてもよくわかる。だが、孔明は冷静な瞳から情報という名で見極め質問を重ねた。


「そうですか。ずいぶん生徒に人気があるみたいですが、何か特別な理由でもあるんですか?」


 閉じられていたヴァイオレットの瞳は少しだけ開かれた。そのレンズに映し出されたのは、山吹色のボブ髪の教師が、四角い薄いものをもらっているところだった。


「ええ、思春期まっただ中の高校生の興味を惹くようなことを私生活でしたんです。ですから、そちらが原因かもしれません」


 何かをやらかしたような高校教師。渡り廊下で女子高校生に囲まれ、プレゼントの山にうずもれるほどのこと。何が起きたのか、孔明は当然気になった。


「どのようなことですか?」


 凛とした澄んだ女性的な男の声は意外そうに、いやおどけた感じで聞き返した。


「おや、ご存知でないんですか? 有名な話ですよ」

「様々な方とお会いする機会に恵まれている私ですが、残念ながらぞんじ上げません」


 さっきからずっと、ブレスレットのチェーンを引っ張っていた手を前に持ってきて、結婚指輪を胸の前で止め、襟元を指でつまむように整えた。まるで天下分け目の戦いに向けて、身を引き締めるように。


 お互い、怖いくらいニコニコ微笑みながら、穏やかな小学校の渡り廊下に似つかわしくない、殺気立った言葉の押し問答もんどうの決戦の火ぶたが落とされた。


「そうですか。孔明先生はご冗談が過ぎますね?」

「どのような意味でおっしゃっていらっしゃいますか? 月命先生」

「こちらの場所で説明してしまってよろしいんですか?」

「どなたかに聞かれては困るような内容なんですか?」

「私は申し上げても構いませんが、孔明先生がお困りになるのではと思って、確認をさせていただいてる次第なんですが……?」


 微妙に二人の敬語が崩壊したまま、どこまでも続いてゆく地平線のように繰り返されそうだったが、孔明はくるっと四十五度左に向いて、月のような美しい横顔を見せている人に、少しだけ憤慨ふんがいした。


「いつまで、この話し方するつもり?」

「おや? 君が先に根をあげましたか~」


 未だに怖いほどの笑顔をしている月命は、孔明の真正面に向き直って、おどけた感じで言った。よそ行きの言葉はどこかへ行ってしまった。


 孔明は甘くだらだらの声を出す。


「な~んで、こんなことボクにしてるの? 月~」

「うふふふっ、孔明、朝のお返しです~」


 二人とも相手を尊重する先生という単語が、どこかへ遠い宇宙へほうむり去ったようになくなっていた。しかも、朝に何かあったようだ。そのことはよく知っていて、孔明は言い返した。


「あれはボクじゃなくて、貴増参のお願い事だったんだけど……」


 人間関係が複雑かする中で、月命の変化は春が怯え上がるようだった。ニコニコとしていながら、真綿で締め殺すような疑いの眼差しを、月命は孔明に差し込むように向けた。語尾がゆるゆる〜と伸びているからこそ、脅威が増す。


「そうですか~? 僕をわざと選んだ、という策略……さ・く・りゃ・く、です」


 差し込んだナイフで、身を縦に何度もえぐるように切りつけるように、一字ずつ離して言葉を放ってきたからこそ、心の奥深くで怒りというマグマがくすぶっているのがよくわかる月命だった。


「そうかなあ~?」


 孔明は悪戯した子供がするみたいに、首を反対に可愛く傾げると、肩に乗っていた桜の花びらがひとつ、渡り廊下にふわっと落ちた。


 兄貴には通じた手だったが、目の前にいる男は、小学生には優しいが大人に対しては、人と人と思わず残虐ざんぎゃくな遊びに酔いしれる中世の貴族――という表現が一番似合う。敵に回しては絶対にいけない人物である。


 月命は月のようなきれいな顔で、恐怖という言葉が逃げ出すほどの含み笑いをした。


「うふふふっ。僕には嘘は通じませんよ~。君より何年長く生きていると思っているんですか?」

「何年だったかなあ~? ボク、数字に弱いんだよね~」


 あんなに素早く時間の計算をしていたのに、孔明もまるで対等の立場というように、月命に嘘をつき続ける。


「うふふふっ」


 月命がわざとらしく笑い声を上げると、春風舞う平和で穏やかな小学校の渡り廊下が、血の池地獄になった気がした。


「また嘘ですか~。神の申し子、天才軍師とうたわれ、こちらの世界へきてからも、他の方たちに反則だと言わせるほど頭の切れる人。塾を開いて、こちらが好評だった先生。陛下から直々《じきじき》に多くの方々に伝えるように、他の宇宙にまで行くよう、先日、命令を下された。そちらが君です~」


 薄手の白い着物を着て、縄のような赤い髪飾りで、漆黒の髪を頭近くで結い上げ、左手首にブレウレットをしているおしゃれな孔明は、のらりくらりと会話を交わしているが、世界的に有名な大先生だったのだ。


「そんなこと、言われたかなあ~?」

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