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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
リレーするキスのパズルピース
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ラブレターと瞬間移動/2

 左手のシルバーリングがカチャカチャと金属音をかき鳴らしながら取り出し、そのまま耳に当てるのかと思いきや、すっと消え去った。次に、携帯電話が現れると、なぜか、ウェスタンブーツの上に。そのまま、ボールを蹴り上げるように、長いジーパンの足とスパーが動き、ヒューッと山を描いて、振動し続けているものが頭の上へ飛んできた。


「タイミングよすぎんだよな。どうやって、計算してやがんだ?」


 そのまま通話にすればよかったものの、余計なアクションが入っていた。電話の向こうから聞こえてきた第一声はこれだった。


「は〜い!」


 砂埃舞う農場で、ウェスタンスタイルでかっこよく、しゃがれた声で渋く決めていた兄貴とは、対照的な軽いノリの言葉。


 その声色こわいろは陽だまりみたいな穏やかさがあり、誰が聞いても好青年だと太鼓判を押すほどのものだった。


あき、ボクのラブレター読んでくれた?」


 犯人自ら出頭。


「てめえ、今さらどういうつもりだ? こんなのくれやがってよ」


 ガサツな声は絞り出すようにうなって、ガツンとウェスタンブーツが丸テーブルの足を強く蹴りつけた。


 子供が楽しくて仕方がないというように笑い声をふふっともらして、


「こういうつもり……」


 電話の相手の人差し指が、目の下に当てられ、思いっきり下へ引っ張られた、あっかんべーをするように舌を出して。


「ベー、悪戯だよ〜」


 好青年というイメージをおとりにした、悪戯坊主という確信犯だった。だが、対する兄貴は大人な対応で軽くクリア。しかし、語尾に、わざとらしくカウンターパンチをつけ足した。


「そんなことしてねぇで、てめぇ、ワークどうしたんだよ? ビッグ先生ティーチャーさんよ」


 電話の向こうで薄地の白い袖口が、携帯を持ったことによって、スルスルと腕を滑り落ちて、素肌を見せてゆく。


 男は陽だまりみたいな柔らかな声で平常をよそおい、言葉の後半でやり返してきた、自分の名前を呼んでもらえなかったことに対して。


「今は待機中だよ。孔雀大明王兄貴」


 太いシルバーリングは、苛立いらだたしげにロッキングチェアーの肘掛けにコツコツとたたきつけられた。


「その名前で呼ぶんじゃねぇよ。それは役職名なんだよな。しかも、最後ファイナルに兄貴つけやがって。思いっきり異様ミスマッチになってやがんだよ」


 ソファーに気だるそうにもたれかかっていた腕に綺麗な頬を預けると、サラサラと背中で何かが動いた。そして、この男の甘々な言い回しが出てくる。


「そう? ちょっと前までは、そう呼んでたのに、何が変えさせちゃったのかなあ〜?」


 藤色の剛毛は、節々のはっきりした指先で、引っ張られたり、からまされたりしながら弄ばれる。


「わかり切ってること聞いてきやがって。孔明、てめえまた何かしてやがんだろ?」


 孔明と呼ばれた男はソファーの肘掛けにもたれていた手から頬を離し、背中から漆黒の細い線をすうっと引っ張っては、指先からなめらかな絹が落ちるように、スルスルと胸の前にしなやかに寄り添わせる。


「何のことかなあ〜?」


 瑠璃紺色の二つのものが首を傾げたために、左斜めになって立ち止まった。その先で、結び直されたピンクの布に包まれた四角いもの――昼食の空腹を満たしたカラのお弁当箱は静かにアフターファイブならず、アフター昼休みを楽しんでいた。


 夏風に煽られた大木の群れが、まるで大海原のように、鋭いアッシュグレーの瞳に映っている。


「またシラ切りやがって。あん時みてえに、オレをサプライズさせるつもりじゃねえだろうな?」

「何か驚いちゃったの〜?」


 はぐらかそうとしやがって。お弁当の下にはさまっているラブレターをスパーで切り裂くように、ウェスタンブーツは丸テーブルの上にドカッと乱暴に上げられた。


「オレのワークが年末の繁忙期で忙しいからよ、延期してたのに、てめえが先にきてやがって。しかも、てめえの名前は知っててもよ、話したこともなかったんだよ。混乱させやがって。によ、これ以上はあん時はダメだって、ボスからくぎ刺されてただろうがよ。それを突破しやがって、何しやがったんだよ?」

「あれ〜? ボク、そんなことしたかなあ〜?」


 背中から漆黒の長い髪を引っ張ってきて、聡明な瑠璃紺色の瞳に映す、孔明の表情はまったく微笑んでおらず、一ミリの隙も見逃さないというような計算し尽くされた、精密、精巧、冷静、異彩、非凡……どんな言葉でも足りないほど。とにかく頭がいいという言葉を総なめにするくらいだった。


 電話という死角。話す言葉と雰囲気とは違う、本性を一人きりの空間でかもし出している男。孔明の足は色気が匂い出て仕方がないというように、ソファーの上で組み直された。


「てめえのその頭使って、何かしやがったんだろ?」


 鋭いアッシュグレーの眼光は、刃物で切り込むようにガンを飛ばす、電話の向こうにいる相手の手強さを知っているために。


 頭高く結い上げた漆黒の髪。そこに添えられていた細い縄みたいな髪飾りを指先にくるくると巻きつけ、目の前の窓に広がる景色を孔明は眺める。


 だがしかし、それは脳という記憶の引き出しに、きちんと整理される情報収集という名の視線。


「ボクは彼に素直に気持ちを伝えただけだったんだけど……。他の人が勝手に動いちゃったのかなあ〜?」


 不道徳で不誠実だったなら、兄貴は許さなかった。しかし、孔明の言っていることは手段には問題があるが、結果オーライだったので明引呼はスルーした。

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