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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
リレーするキスのパズルピース
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手紙と不意打ち/5

 言い方は違えど、独健と同じツッコミを受けた貴増参だったが、真面目な顔をしてこんなことを言う。


「開けてびっくり、玉手箱です」

「スルーしてんじゃねぇよ、オレの質問クエスチョンをよ」


 節々のはっきりした手で、深緑のマントをバンッと強く引っぱたいた。それを気にした様子もなく、貴増参はオレンジ色のリボンの下に手を当て、静かに言葉を紡ぐ。


「そう、僕と君はいつも切ないくらいにすれ違いです」

恋愛物ラブストーリーみてえな言い方しやがって、オレに合わせろや、少しは話をよ」


 マイペースでガンガン先に進んでゆく、いやどこか別次元へ行ってしまう貴増参。風が吹き抜け、枝が丸くからまり合った、ダンブルウィードが乾いた大地を右から左へ転がってゆく。農園の木々がカサカサと揺れる上で、部下のコンドルが飛び回る空の下で、明引呼は手紙を眺めていたが、やがて口を開いた。


「何書いてあんだ、中にはよ?」

「君 あてなので、僕も中身は知りません」


 もちろん、預かってきたので、貴増参が知るよしもない。人のものを勝手に開けるなどしない。溶かしたロウに刻みこまれた桔梗の、リーリングスタンプで閉じられている封を、節々のはっきりした手で不器用そうに開ける。ビリビリ。


「ああ?」


 中からは対比的な水色の便箋びんせんが一枚出てきた。綺麗に端を合わせ、四つ折りにしてある紙を、太いシルバーリング三つをつけた男らしい指先でガサガサと開いた。


 アッシュグレーの鋭い眼光に映ったのは、立てばシャクシャク、座ればボタン、歩く姿はユリの花。艶やかな色気匂い立つ相手が容易に想像できる、美しい筆字ふでじ。明引呼はそれを棒読みする。


「……ボクはキミに一目惚れでした。ボクは毎日、手の届かない夜空の星々を見上げるような気持ちでキミを見ていました。そう、キミはボクの太陽、ボクはキミの……」


 野郎どもに、名ゼリフを背中で語る兄貴。ここから突っ込み始めた。


「綺麗に書いてあるように見せてっけどよ。ナイスに言葉すり替えて、さりげなく笑い取ってんだよな」


 カウボーイハットのつばを上げて、青空に透かすように持ち上げ、鋭い眼光で刺すように手紙を眺める。


「星空が太陽にチェンジしてんだよ。昼と夜ごっちゃになってんだろ」


 比喩表現を使ったはいいが、大失敗な手紙。明引呼はそれを人差し指と中指で挟み持ちして、だれた感じでロッキングチェアの肘掛けに腕をドサッと落とした。


「っつうか、恋文ラブレターだろうが。しかも、野郎からのよ。どうなってやがんだ?」


 同性からもらってしまった、愛の告白文。衝撃的な内容のはずなのに、そばで黙って聞いていた貴増参はにっこり微笑み、夢見る乙女のような感じで言い、明引呼のガサツな声で突っ込むがリピートする。


「僕も『ワクワク』が欲しいです」

「ボケてくんじゃねぇよ。そこは、『ドキドキ』だろうがよ」

「青い春と書いて、青春。君もしちゃったんですか?」

「すっかよ。もう結婚してるだろうが」


 既婚者に同性からラブレターが送られてきていた。手紙の渡し役になった貴増参は黒いロングブーツを交差させた。


「それでは、僕が名探偵になって犯人探しをしましょう」


 持っていた手紙を、明引呼はビュッと、貴増参の襟元のオレンジ色のリボンの前に突きつけた。


「てめえ、今日もよく飛ばしやがって。それじゃ、砂の中から砂を見つけるようなもんだろ。てめえが本人から預かってきたんだから、知ってんだろ、どいつが書いたかよ」


 灯台 もと暗しとも違う、手紙の差出人探し。貴増参は気にした様子もなく、軽く咳払いをして、またクイズ番組の司会者みたいなことを口にした。


「それでは、ここで、明引呼に問題です。君は同性にとても慕われてます。たくさん候補はいます。どなたがこれを書いたでしょう?」

「当てたら、何か商品くれんのか?」


 ウェスタンスタイルのガタイのいい男の体は、ロックングチェアの上で、小さな寝返りを打つようにねじれた。カモフラのシャツに包まれたペンダントヘッドが二つチャラチャラとこすれ合う。


「そうですね? あ、超胸キュンキュンな素敵なプレゼントがありました」

「どんなんだよ?」


 しゃがれた声が口笛を吹くように響いたかと思うと、羽布団のような柔らかな男の声でおかしなことが告げられた。


「お花畑でランララ〜ン♪庵の限定どら焼きか、君を愛してる僕のキスです」


 後半部分がさりげなく引っ掛かったが、野郎どもをうならせる兄貴は、農園の木々の遠くを眺めながら、鼻でバカにしたように少し笑った。


「てめえ、昔っから限定モンにようえな。店の思惑通り動いてんじゃねぇかよ、それじゃよ。だいたいこういうのはよ、限定って書いて、なくなると思わせて買いにこさせて、在庫は裏にごっそりあるって寸法だぜ」


 明引呼は筋肉質の両腕を頭の後ろに回して、ヒュルルーと鳴きながら飛んでいるコンドルを見上げた。盛夏を思わせる風が二人の間を何度か吹き抜け、カーキ色のくせ毛と藤色の剛毛をしばらく揺らしていた。


「…………」

「…………」


 どこまでも無言が続きそうだったが、貴増参から、明引呼――兄貴に初回ツッコミがきた。


「今度は君が僕をスルーです。僕のキスという誘惑から」

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