勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――12
苦境に陥ったエリーゼ先輩を無視して、レイスビショップが両腕を掲げる。
上空に、魔法陣に似た紋様が浮かび、そこから展開された半球状の結界が、ステージを覆った。
レイスビショップの固有アビリティ『闇の教典』が作り出したものだ。
『闇の教典』は、『戦闘に出た際、自分以外の闇属性モンスターの、全ステータスを10%上昇させる結界を展開する』固有アビリティ。しかもその結界は、戦闘終了時まで消滅しない。
ただでさえ、『目眩』状態のファブニルで戦わなくてはならないのに、相手の2番手以降の従魔は、強化された状態で戦闘に出てくる。
エリーゼ先輩にとって、厳しい状況だ。
「不注意なやつだな、従魔の状態異常に気付けないなんてよ。四天王が聞いて呆れるぜ」
いけしゃあしゃあとジェイクが嘯き、レイスビショップに指示を出す。
「『ヒーリングフィールド』!」
『AAAAHH……!』
レイスビショップが、祈るように指を組んだ。
チェシャが用いていた、回復フィールド展開スキル。チャージタイムは5秒だ。
動いたジェイクに対し、エリーゼ先輩はまぶたを閉じ、ゆっくりと深呼吸する。
まぶたを開けたエリーゼ先輩は、決然とした眼差しをしていた。
「『ビルドアップ』だ、ファブニル!」
『GOOOOHH……!』
指示を出す声色に迷いはない。
どうやら、『目眩』状態のファブニルで戦うと、腹をくくったようだ。
ファブニルが、ググッ、と力を溜める。
STRを30%上昇させる、自己強化スキルの代表格、ビルドアップの構え。
『目眩』状態のファブニルは、1/2の確率で攻撃を外してしまう。そのため、1発の威力を高めようと考えたのだろう。
チャージタイムの2秒が過ぎ、ビルドアップが発動した。
『GOOOOOOHH!!』
ファブニルが雄叫びを上げ、STRが30%上昇する。
エリーゼ先輩は、直ぐさま次の指示を出した。
「『バレットタックル』!」
『GOOOOHH……!』
ファブニルが巨体を沈ませる。高威力の物理攻撃スキル『バレットタックル』の構え。チャージタイムは4秒だ。
ファブニルがバレットタックルの準備をしているあいだに、レイスビショップのヒーリングフィールドが発動する。
『AAAAAAHH!』
ステージを淡い緑色の光が包んだ。
どうやら、レイスビショップの役割は、チェシャのように、後続の支援のようだ。
「いや、それだけじゃない」
俺の呟きを証明するかのように、ジェイクが声を上げる。
「『ダーククレセント』!」
『AAAAHH……!』
レイスビショップが両腕を交差させた。
その手から、黒い陽炎が溢れ出す。
闇属性の魔法攻撃スキル『ダーククレセント』の構え。チャージタイムは5秒だ。
『闇の教典』を持つレイスビショップは、登場するだけで味方の強化を果たせる。そのため、複数の役割を持った『複合型』の構成にしやすい。
ジェイクの場合、支援役と火力の複合型のようだ。
レイスビショップがダーククレセントの準備に入った直後、ファブニルがバレットタックルを発動させた。
『GOOOOOOOOHH!』
ファブニルが飛び出し、全身を砲弾に変える。
ビルドアップによる強化があるうえ、レイスビショップのVITは低い。1発で1/2以上、HPを削れるだろう。
当たれば、だが。
「残念だが、これは外れる」
俺は冷静に推測した。
バレットタックルの狙いはわずかにズレている。ファブニルの軌道上に、レイスビショップはいない。
レイスビショップのすぐ脇を、ファブニルが駆け抜ける。
ファブニルのバレットタックルは、レイスビショップの髪を乱すだけに終わった。
「おうおう、運がねぇなぁ」
「くっ」
嘲るジェイクに、エリーゼ先輩が悔しげに唇を噛む。




