勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――11
『Bブロック最終試合は、セントリア従魔士学校所属、エリーゼ・ガブリエルさんと、ノードス従魔士学校所属、ジェイク・サイケロアくんの試合です』
審判の声が響く。
サイキックラビットが映し出すステージの様子を、俺は控え室で眺めていた。
「セントリア従魔士学校の四天王さまの登場か。お手並み拝見といこうじゃねぇか」
ジェイクがニヤニヤ笑いを浮かべる。
その表情に緊張は微塵もない。
「随分と余裕そうだね」
「ここまで手応えがねぇやつばかりだったからなぁ。お前もその程度じゃないかと思ってよ」
「そうか」
ジェイクの挑発を、エリーゼ先輩は涼しい顔で受け流した。
「悪いが勝たせてもらうよ。わたしには、負けられない理由があるからね」
「くくっ、言うじゃねぇか」
ジェイクとエリーゼ先輩の志気が上がっていくのが、映像からもひしひしと伝わってくる。
『両者構え!』
審判が右手を挙げ、ジェイクとエリーゼ先輩が、魔石を取り出した。
「せいぜい足掻いてくれや」
ジェイクが嘲笑し、
『――はじめ!』
審判が右手を振り下ろす。
ジェイクとエリーゼ先輩が、魔石を放り投げた。
「来い、ファブニル!」
「行ってこい、レイスビショップ!」
『GOOOOOOHH!』
『AAAAAAHH!』
エリーゼ先輩の1番手は、アースドラゴンのファブニル。
ジェイクの1番手は、ボロボロの司祭服をまとった、半透明の女性型モンスターだった。その髪はボサボサで、頬はこけている。
レイスビショップ:98レベル
INT、DEX、AGIが高く、それ以外のステータスが低い、闇属性のモンスター『レイスビショップ』。良質の魔法攻撃スキル・支援スキルを習得する、魔法使い系モンスターだ。
装備品は、『装備しているモンスターのHPが1/2になると、自動的に味方のモンスターと交代させる』効果を持つ『転移の指輪』。条件付きではあるが、ミスティ先輩の従魔、チェシャが用いたトリックシフトと同じく、ノータイムで従魔を交代させることができる。
『転移の指輪』はトリッキーな装備品だ。レベルの低い従魔士では扱い切れない。
なんらかの意図をもって、レイスビショップに『転移の指輪』を装備させているとしたら、ジェイクの従魔士としてのスキルは相当なものだろう。
四天王であるエリーゼ先輩に物怖じしていないことからも、ジェイクの実力の高さがうかがえる。
「ファブニル!?」
俺がジェイクの分析をしていると、エリーゼ先輩が戸惑いの声を上げた。
見ると、ファブニルがフラフラと頭を揺らしている。
俺は瞠目した。
『目眩』状態になっている!?
どういうことだ? エリーゼ先輩ほどの実力者が、従魔の状態チェックを怠ったとは思えない。状態異常の従魔を繰り出すようなミスは起こさないはずだ。
怪訝に思い、俺はファブニルを注視して――気付いた。
ファブニルがつけている腕輪が、茶色から紫色に変わっている。
あれは『大地の腕輪』じゃない。『酩酊の腕輪』だ。
『酩酊の腕輪』は、『装備しているモンスターを「目眩」状態にする』効果を持つ。俗に言う『呪われた装備』というやつだ。
俺は険しい顔で推理する。
すり替えられたと考えるのが妥当だな。
『酩酊の腕輪』を扱った戦術は存在する。しかし、動揺していることから察するに、エリーゼ先輩はその戦術を用いようとは考えていない。
『酩酊の腕輪』をファブニルに装備させたのは、エリーゼ先輩以外の人物だ。そして、その人物は十中八九、ジェイクだろう。
レドリア王を殺害するため、ジェイクはなんとしても決勝に進まなくてはならないのだから。
俺は舌打ちした。
状況的に見れば、間違いなくジェイクの仕業だが、証拠がない。ジェイクを訴えるのも、試合を中断させるのも、不可能だ。
エリーゼ先輩は、自力でこの窮地を脱するしかない。
サイキックラビットが映し出すエリーゼ先輩が、「くっ」と呻いた。




