勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――7
ステージにクレーターが生まれる。
観客が静まり返った。
これだけ強烈な一撃を受けたんだ。スパークアルマジロなんてひとたまりもない。
誰もがそう思ったことだろう。
俺以外の、誰もが。
ゆっくりと、ティターンの拳が上げられる。
『キュウ』
クレーターの中心にいたマルが、「ビックリしたー」と言いたげに息をつき、プルプルと頭を振った。
マルのHPは、3/4も残っている。
「「「「「「「「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」」」」」」」」
この日一番のどよめきが、観客席から上がった。
ミスティ先輩も、信じられないものを見たような顔をしている。
「ど、どうしてですか!? マルさんのレベルは76! 逆立ちしても、ティターンには敵わないはずですよ!?」
その通り、レベル差は歴然だ。
それだけでなく、ティターンの攻撃性能は脅威的。ジェットパンチは威力が高いとは言えないが、防御性能の低いスパークアルマジロでは耐えらない。
もちろん、そんなこと、俺はわかりきっている。無策でマルを送り出すような真似はしない。
「マルの右腕に答えがありますよ」
俺はミスティ先輩に指摘した。
ミスティ先輩の視線が、マルの右腕に向けられる。
そこには、2本の紐がねじくれたような、奇妙なデザインの腕輪が嵌められていた。
ミスティ先輩が目を見開く。
「『歪曲の腕輪』!! そういうことでしたか……!!」
理解が早くて助かる。
俺は、ニッ、と口端を上げた。
『歪曲の腕輪』は、レイシーとともに行った、ジェア神殿で手に入れた装備品。
その効果は、『装備しているモンスターのSTR、INTが0になるが、STRの数値がVITに、INTの数値がMNDに加算される』だ。
スパークアルマジロは、防御性能が低いが、攻撃性能に優れる、火力向きのモンスターだ。
しかし、固有アビリティ『温厚』の効果で、攻撃・防御のたびに、STR、INTが30%減少してしまう。
そのため、スパークアルマジロを火力として運用するのは難しい。
だが、見方を変えれば、『温厚』は非情に優秀な固有アビリティだ。
攻撃性能こそ下がってしまうが、代わりに、VIT、MNDが30%増加する。盾役にとっては、喉から手が出るような性能だ。
ならば、どうにかしてスパークアルマジロを盾役にできないだろうか?
そんな発想の転換から考案されたのが、『歪曲型スパークアルマジロ』――文字通り、『歪曲の腕輪』を装備させたスパークアルマジロだ。
スパークアルマジロの防御性能は低いが、STR、INTの値を加算すれば、並の盾役が足もとに及ばないほどの高さになる。
加えて、攻撃されるたび、『温厚』の効果で、VIT、MNDがどんどん上がっていく。相手からすれば堪ったものじゃない。
その防御性能は、攻略Wikiに、『スパークアルマジロほどウザいモンスターはいない』と記されるほどだ。
マルの厄介さを察したのだろう。ミスティ先輩が、顔付きを険しくした。
「『アイスシェル』!」
『OOOOHH……!』
ミスティ先輩の指示を受け、ティターンが、ガパァ、と大口を開ける。
氷属性の魔法攻撃スキル『アイスシェル』。その威力は、ジェットパンチよりもずっと高い。
なるほど、力押しできたか。
「いい判断だ」
ミスティ先輩の選択に、俺は思わず呟いた。
『歪曲型スパークアルマジロ』とはじめて相対したプレイヤーは、大抵、交代か自己強化を選ぶ。
『温厚』は、攻撃するか防御するかしないと発動しないし、『歪曲型スパークアルマジロ』は、STR、INTともに0だ。
『歪曲型スパークアルマジロ』から攻撃されることはないだろう。下手に攻撃せずに、状態異常スキルを扱う『ハメ技系モンスター』に交代するか、『歪曲型スパークアルマジロ』の防御性能を上回るくらい、攻撃性能を上げればいい――そう考えるからだ。
逆に言えば、その発想は『並レベル』ということ。
しかし、ミスティ先輩は、迷わず攻撃を選んだ。
ミスティ先輩は気付いているのだろう――『歪曲型スパークアルマジロ』の、必殺技の存在に。
素晴らしい。
つくづく、このひとと戦えてよかったぜ!
肉食獣のように笑い、俺もまた、マルに指示を出す。
「『スタンボディー』だ!」
『キュ!』
マルがギュッと体を縮こまらせた。




