表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/219

勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――7

 ステージにクレーターが生まれる。


 観客が静まり返った。


 これだけ強烈な一撃を受けたんだ。スパークアルマジロなんてひとたまりもない。


 誰もがそう思ったことだろう。


 俺以外の、誰もが。


 ゆっくりと、ティターンの拳が上げられる。




『キュウ』




 クレーターの中心にいたマルが、「ビックリしたー」と言いたげに息をつき、プルプルと頭を振った。


 マルのHPは、3/4も残っている。


「「「「「「「「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」」」」」」」」


 この日一番のどよめきが、観客席から上がった。


 ミスティ先輩も、信じられないものを見たような顔をしている。


「ど、どうしてですか!? マルさんのレベルは76! 逆立ちしても、ティターンには敵わないはずですよ!?」


 その通り、レベル差は歴然(れきぜん)だ。


 それだけでなく、ティターンの攻撃性能は脅威的(きょういてき)。ジェットパンチは威力が高いとは言えないが、防御性能の低いスパークアルマジロでは耐えらない。


 もちろん、そんなこと、俺はわかりきっている。無策でマルを送り出すような真似はしない。


「マルの右腕に答えがありますよ」


 俺はミスティ先輩に指摘した。


 ミスティ先輩の視線が、マルの右腕に向けられる。


 そこには、2本の(ひも)がねじくれたような、奇妙なデザインの腕輪が()められていた。


 ミスティ先輩が目を見開く。


「『歪曲(わいきょく)腕輪(うでわ)』!! そういうことでしたか……!!」


 理解が早くて助かる。


 俺は、ニッ、と口端を上げた。


『歪曲の腕輪』は、レイシーとともに行った、ジェア神殿で手に入れた装備品。


 その効果は、『装備しているモンスターのSTR、INTが0になるが、STRの数値がVITに、INTの数値がMNDに加算される』だ。


 スパークアルマジロは、防御性能が低いが、攻撃性能に(すぐ)れる、火力(アタッカー)向きのモンスターだ。


 しかし、固有アビリティ『温厚』の効果で、攻撃・防御のたびに、STR、INTが30%減少してしまう。


 そのため、スパークアルマジロを火力(アタッカー)として運用するのは難しい。


 だが、見方を変えれば、『温厚』は非情に優秀な固有アビリティだ。


 攻撃性能こそ下がってしまうが、代わりに、VIT、MNDが30%増加する。盾役(タンク)にとっては、喉から手が出るような性能だ。


 ならば、どうにかしてスパークアルマジロを盾役(タンク)にできないだろうか?


 そんな発想の転換から考案されたのが、『歪曲型スパークアルマジロ』――文字通り、『歪曲の腕輪』を装備させたスパークアルマジロだ。


 スパークアルマジロの防御性能は低いが、STR、INTの(あたい)を加算すれば、並の盾役(タンク)が足もとに及ばないほどの高さになる。


 加えて、攻撃されるたび、『温厚』の効果で、VIT、MNDがどんどん上がっていく。相手からすれば(たま)ったものじゃない。


 その防御性能は、攻略Wikiに、『スパークアルマジロほどウザいモンスターはいない』と(しる)されるほどだ。


 マルの厄介さを察したのだろう。ミスティ先輩が、顔付きを険しくした。


「『アイスシェル』!」

『OOOOHH……!』


 ミスティ先輩の指示を受け、ティターンが、ガパァ、と大口を開ける。


 氷属性の魔法攻撃スキル『アイスシェル』。その威力は、ジェットパンチよりもずっと高い。


 なるほど、力押しできたか。


「いい判断だ」


 ミスティ先輩の選択に、俺は思わず呟いた。


『歪曲型スパークアルマジロ』とはじめて相対したプレイヤーは、大抵(たいてい)、交代か自己強化を選ぶ。


『温厚』は、攻撃するか防御するかしないと発動しないし、『歪曲型スパークアルマジロ』は、STR、INTともに0だ。


『歪曲型スパークアルマジロ』から攻撃されることはないだろう。下手に攻撃せずに、状態異常スキルを扱う『ハメ技系モンスター』に交代するか、『歪曲型スパークアルマジロ』の防御性能を上回るくらい、攻撃性能を上げればいい――そう考えるからだ。


 逆に言えば、その発想は『並レベル』ということ。


 しかし、ミスティ先輩は、迷わず攻撃を選んだ。


 ミスティ先輩は気付いているのだろう――『歪曲型スパークアルマジロ』の、()()()の存在に。


 素晴らしい。


 つくづく、このひとと戦えてよかったぜ!


 肉食獣のように笑い、俺もまた、マルに指示を出す。


「『スタンボディー』だ!」

『キュ!』


 マルがギュッと体を縮こまらせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ