勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――4
俺が牙を剥くように笑うと、ミスティ先輩は眼差しを真剣なものにして、身構える。
俺はユーに指示を出した。
「『ベンジャーレイス』!」
『ムゥ……!』
パージでも、リバーサルストライクでも、エクスディフェンスでもない、初披露のスキル。
ミスティ先輩が、アメシストの瞳を真ん丸にする。
「バーサクリバストではないのですか!?」
「ええ。嘘をつきました」
試合開始直後、俺はこう言い放った。
――いつも通りいくぞ! バーサクだ!
この言葉はブラフだ。
『これまでの試合通り、相手はバーサクリバストを用いてくる』――ミスティ先輩に、そう思い込ませるために言い放ったんだ。
ミスティ先輩は、ユーのスキル構成がバーサクリバスト型だと思い込み、対バーサクリバスト用の試合運びをした。
俺の狙い通りに。
「く……っ」とミスティ先輩が呻く。
悔しがるミスティ先輩に構わず、ユーがスキルの準備をはじめた。
自分の正中線に平行させるように、ユーがロングソードを構える。
ティアが用いたチェインライトニングのチャージタイムは5秒。対し、ユーのベンジャーレイスは3秒。
先にスキルを発動させるのはユーだ。
緊張からか、ミスティ先輩の頬を汗が伝う。
きっかり3秒後、ユーがベンジャーレイスを発動させた。
『ムゥッ!』
ユーがロングソードを掲げると、何体もの小さな幽霊が、周りに現れる。
鎧やロングソードで武装した、ユーと瓜二つの幽霊たちは、現れた側から姿を消した。
「いまのは……?」
ベンジャーレイスの効果を把握していないのか、ミスティ先輩が眉をひそめる。
時間は止まらない。
チャージタイムが終了し、ティアのチェインライトニングが発動した。
『ララー!』
ティアの両手から電流が迸り、空中でみっつの雷球を形成する。
そのうちのひとつが、ユーに襲いかかってきた。
「エクスディフェンス!」
『ムゥ!』
俺はユーに『防御態勢』をとらせる。
ユーが盾のように構えたロングソードに、雷球がはじかれた。
俺は、ニィ、と笑う。
「さあ、反撃開始だ!」
俺が宣言すると同時、ティアの周りに、先ほど姿を消した、ユーと瓜二つの幽霊たちが現れる。
小さな幽霊たちは、ロングソードを高々と掲げ、
『『『『『『ムゥ――ッ!』』』』』』
次々にティアに斬りかかった。
『ラー……ッ!』
幽霊たちに滅多斬りにされて、ティアが苦しそうに鳴く。
攻撃を終えた幽霊たちが再び姿を消したとき、ティアのHPは3/8削られていた。
「なっ!?」
ミスティ先輩が目を剥いた。
ユーが用いたベンジャーレイスは、『攻撃を受けた際、自動で反撃(物理攻撃)を行う幽霊たちを生み出す』魔法スキル。一言で表すと『報復攻撃』スキルだ。
『報復攻撃』の威力はほかの攻撃スキルに比べて低いが、バーサクによって、ユーのSTRは200%上昇している。
『報復攻撃』は物理攻撃なので、STR依存。そのため、バーサクの恩恵により威力が3倍になる。
その威力は、並の攻撃スキル以上だ。
しかも、エクスディフェンスで『防御態勢』をとっているため、ユーがダメージを受けることはない。
バーサクでSTRを激増させ、エクスディフェンスで無敵状態になり、ベンジャーレイスによって一方的にダメージを与える。
ゴーストナイトの代表的スキル構成のひとつ、『ジャーレス型(ベンジャーレイス型の略称)』だ。
本来は、エクスディフェンスの前に、相手を『怒り』状態にする魔法スキル『アンガーブリング』を使用する。
『怒り』は、『30秒間、攻撃スキルしか扱えず、勝手に相手を攻撃してしまう』状態異常。
『ジャーレス型』では、ベンジャーレイスの『報復攻撃』を恐れる相手に、『怒り』を利用して、強制的に攻撃させるわけだ。
今回は、都合のいいことに、ミスティ先輩が、ティアにチェインライトニングを使わせてくれた。
時間差攻撃であるチェインライトニングは、発動させたら自動的に相手を攻撃する。
時間差攻撃、自動攻撃はチェインライトニングの売りだが、現状ではデメリットでしかない。
なにしろ、ティアはあと2回、勝手にユーを攻撃してしまうのだから。




