見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――13
「こういうヒラヒラしたものもあるのか」
セントリアの大通りにある洋服店。
エリーゼ先輩は、店内に並ぶ多種多様の洋服に、興味津々だった。
『オシャレに割く余裕なんてなかった』とか『わたしは女らしくない』とか言っていたが、やっぱりエリーゼ先輩は女の子だ。洋服を眺める先輩の表情はイキイキとしていた。
「気に入ったもの、ありました?」
「むぅ……どんな服がいいのだろうか? いままでファッションに気をつけたことがないからわからないな……」
エリーゼ先輩が腕組みして、眉間にシワを寄せる。
「エリーゼ先輩が着たい服を選べばいいんすよ。大丈夫。先輩は美人だから、どんな服装でも似合いますって」
「ひょっ!? そ、そういうとこだぞ、ロッドくん!」
エリーゼ先輩が真っ赤な顔をして、ズビシ! と俺を指差す。
エリーゼ先輩の言葉が意味するところや、なぜ真っ赤になっているかが、ちょっとよくわからない。
首を捻っていると、エリーゼ先輩が溜息をついて、俺に頼んできた。
「よければ、きみが選んでくれないか?」
「俺が?」
「ああ。ファッションとは、周りに見せるためにあるんだろう? なら、自分で選ぶより、他者に選んでもらったほうがいいと思うんだ」
「けど、俺、ファッションに詳しくないっすよ?」
俺が躊躇うも、エリーゼ先輩は「構わないよ」と微笑む。
「きみがわたしに着せたい服を選んでくれ。それが、わたしの着たい服だ」
あまりにも健気なセリフに、俺の胸が、ドキリ! と鳴った。
「わ、わかりました」と狼狽えながら、俺は店内を見てまわる。
そんな俺を、エリーゼ先輩は穏やかな顔で眺めていた。
⦿ ⦿ ⦿
「じゃあ、こちらを。エリーゼ先輩に似合いそうなのを選びました」
「気遣ってくれてありがとう。早速、試着してみるよ」
選んだ服を手渡すと、エリーゼ先輩はニッコリと満足そうに笑って、試着室に入っていく。
一息ついて、俺は思った。
なんだか、ものスゴくリア充しているなあ。
「ひゃあっ!?」
幸せを噛みしめていると、試着室からエリーゼ先輩の悲鳴が聞こえた。
次いで、ドタタッ! と、なにかとなにかがぶつかるような音が聞こえ、俺はハッとする。
エリーゼ先輩が、危険な目に遭っている!?
「大丈夫っすか、エリーゼ先輩!!」
俺は急いで試着室のカーテンを開けた。
目に飛び込んできたのは、真っ白いふくらはぎと太もも。そして、丸いお尻を包む、水色のショーツ。
カチン、と俺は固まる。
エリーゼ先輩は床に倒れていて、脱ぎかけのスカートが、足首辺りにあった。
どうやら、スカートを脱ぐ際につまずいてしまったらしい。
「あ痛たたた……」
エリーゼ先輩が上体を起こし――エメラルドの瞳が俺を捉えた。
俺とエリーゼ先輩の視線が交差する。
ポカンとしていたエリーゼ先輩の肌が徐々に染まっていき、プルプルと体が震えだす。
俺は口端をヒクつかせた。
「えっと……す、すみませ――」
俺の謝罪の言葉をかき消すように、
「きゃあぁああああああああああああああああああああっ!!」
エリーゼ先輩の悲鳴が木霊した。
⦿ ⦿ ⦿
「その……さっきはすみません」
「い、いや、わたしの不注意が招いた事態だから、きみが気にする必要はない」
洋服店をあとにした俺とエリーゼ先輩は、互いに真っ赤な顔をしながら、セントリアの大通りを歩いていた。
エリーゼ先輩は、オフショルダーのブラウスとショートパンツ――俺が選んだ服を身につけている。
先輩の制服は、俺が手に提げている紙袋のなかだ。
「そ、それより! どうだろう、似合うだろうか?」
エリーゼ先輩がクルリと一回転する。
話題を変えてくれたことに内心で安堵しながら、俺は答えた。
「はい、とても」
「ふふっ、ありがとう」
「着てるひとがステキですしね」
「きっ、きみは一言多いな!」
「褒めたのに!?」
赤くなった先輩になぜか叱られた。相変わらず、女心は難しい。
エリーゼ先輩は心を落ち着かせるように深呼吸して、改めて「ありがとう」と口にする。
「この服は宝物にするよ」
「大袈裟っすね」
「そんなことはない」
俺が苦笑すると、エリーゼ先輩は静かに首を振った。
「ロッドくんに選んでもらったのだからね」
エリーゼ先輩が、ふわりと花開くように微笑む。
今度は俺が赤くなる番だった。




