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見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――12

「しかし、対策が思いついたのなら、わたしとの話もおしまいだな」


 少しシュンとした様子で、エリーゼ先輩が言い漏らした。


 そんな先輩に、俺はお願いする。


「時間が余りましたし、もしよかったら、ちょっと付き合ってもらえませんか?」

「ふゅ?」


 (みょう)な鳴き声がした。


「無理でしたら、断ってもらって構わ――」

「問題ない! 是非付き合わせてもらおう!」

「食い気味で!」


 もの凄い勢いでOKがきた。


 面食らっていると、エリーゼ先輩がクルクルと髪を(いじ)りながら尋ねてくる。


「そ、それで、なにに付き合えばいいのだろうか?」


 どこか期待に満ちた眼差しを不思議に思いながら、俺は逆に()く。


「その前に確認したいんすけど、エリーゼ先輩って、いつも制服着てますよね?」


「ああ」と、エリーゼ先輩が視線を下ろした。


 エリーゼ先輩の服装は、えんじ色のブレザー――セントリア従魔士学校の制服だ。


「1ヶ月ちょっと前、俺がエリーゼ先輩から勝負を挑まれたときもその格好でしたし」

「ああ……きみとレイシーが、手を繋いで帰ってきた日のことか」

「先輩、目が怖い」


 エリーゼ先輩のエメラルドの瞳が闇を(たた)えた。俺の背筋に悪寒が走る。


 俺は頬をヒクつかせながら続けた。


「そ、それで、もしかしたら、エリーゼ先輩は私服をあまり持っていないんじゃないかと思いまして」

「そんなことないぞ?」

「じゃあ、制服が気に入っているとか?」

「そういう意味ではない」


 エリーゼ先輩が首を振って訂正(ていせい)する。


「わたしは『私服をあまり持っていない』のではない。『私服をまったく持っていない』んだ」


 予想の斜め上を行く解答に、俺はギョッと目を剥いた。


「1着もっすか!? 女性はオシャレ好きって聞いたことあるんすけど……」

「わたしはずっと、レイシーを助けるために生きてきたからね。自分とゲオルギウスを鍛えることに必死で、オシャレに()く余裕なんてなかったんだ」


 そう告げるエリーゼ先輩は、しかし、微塵の後悔も感じない、晴れやかな顔をしていた。


 それだけレイシーを大切に想っているということだろう。


「まあ、それならちょうどいいか」


 俺が苦笑すると、「ちょうどいい?」とエリーゼ先輩が首を傾げた。


「エリーゼ先輩、俺と一緒に服を買いに行きましょう」

「きみのか?」

「いまの話の流れでどうしてそうなるんすか……」


 ズレまくっているエリーゼ先輩に、俺は溜息をつく。


「先輩のに決まってるでしょう?」

「ふゅ?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは、いま、エリーゼ先輩が浮かべているもののようなことを指すのだろう。


「し、しかし、わたしは女らしくないだろう? オシャレなんかしても似合わないよ」


 エリーゼ先輩が、アタフタしながら自嘲した。


 エリーゼ先輩の言うことが心底(しんそこ)理解できず、俺は首を捻る。


「いや、そんなことないでしょ。先輩は美人なんすから」

「ひょっ!?」

「むしろ、オシャレしないともったいないっすよ。せっかくキレイなんだし、着飾ったほうがもっと魅力的に――もがっ」

「ももももういい、もういいぃいいいいいいっ! わかったから! ステ――――イっ!!」


 本音で指摘する俺の口を、エリーゼ先輩が両手で塞いだ。


 いきなりなにをするんだろう? あと、口を塞がれたとき、首がグキッ! って鳴ったんだけど、大丈夫か?


「まったく……このジゴロめ」


 俺が頸椎(けいつい)の心配をしていると、エリーゼ先輩がなにやらボソッと呟いた。


 エリーゼ先輩の顔は、リンゴよりも赤く染まっていた。

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