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見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――11

「ロッドくん、ちょっといいかい?」


 祝勝会を終え、会計へ向かおうとしたところ、エリーゼ先輩がこっそり耳打ちしてきた。


「なんすか?」

「きみにはなんとしてもクレイド先輩に勝ってもらわないといけない。そこで、クレイド先輩の扱う従魔や戦術などを、伝えておきたいんだ」


 話を聞かれたくないのか、エリーゼ先輩は、しきりにみんなのほうをチラチラとうかがっていた。


「明日、セントリアの図書館に来てもらえないだろうか? あそこなら、モンスターやアイテムに関する資料が豊富にある。クレイド先輩の情報を(もと)に、対抗策を組み立てるのにちょうどいいだろう」


「ふむ」と、俺は斜め上に視線をやりつつ思案する。


 なぜそこまで躍起(やっき)になるのかはわからないが、エリーゼ先輩がクレイド先輩の情報を教えてくれるなら、ありがたい。


 ゲームとこの世界とでは、少なからず差異(さい)がある。この世界でのミスティ・クレイドが、俺の知識と異なる従魔や戦術を扱っていれば、勝負の際に支障(ししょう)をきたすだろう。


 あらかじめ確認しておけるなら、それに越したことはない。


「わかりました。よろしくお願いします」

「ああ、任せてくれ!」


 俺が承諾(しょうだく)すると、エリーゼ先輩は明るく笑った。


 話を終え、俺は改めて会計に向かう。


「……すまない、レイシー。出遅れたわたしは、抜け駆けするほかないんだ」


 エリーゼ先輩が、なにやらボソボソと呟いていた。




     ⦿  ⦿  ⦿




 翌日の午前中、俺はエリーゼ先輩との約束どおり、セントリアの図書館を訪れていた。


「クレイド先輩は、セントリア従魔士学校(いち)の――いや、セントリア一の策士だ」


 テーブルにたくさんの資料を並べ、エリーゼ先輩が説明する。


「クレイド先輩が『贈魔(ぞうま)()』で授かったのは、『アートフルキャット』というFランクモンスターで、入学当初は劣等生(あつか)いされていたらしい」


 しかし、


「彼女はアートフルキャットを巧みに操り、二年の中期で四天王入りを果たし、後期には第1位の座に就いた。Fランクモンスターを授かりながらも逆境をはね除けたところは、きみに似ているね」


 俺はクロを授かったことをむしろチャンスと(とら)えていたし、アートフルキャットは、ゲームではなかなか重宝するモンスターだが、この世界の従魔士は、有用性に気付けないのだろう。


 逆説的に、アートフルキャットの可能性を見出したミスティ先輩は、相当な切れ者と言える。


「クレイド先輩の戦術で(かなめ)となるのもアートフルキャットだ。アートフルキャットのステータスは、AGI、DEX以外は脆弱(ぜいじゃく)で、優秀な攻撃スキルも覚えない。しかし、クレイド先輩は、状態異常スキルや支援スキルを駆使し、優位に立ちながら試合を運ぶんだ。その手腕は『魔法』と称されているよ」


 話を一区切りして、エリーゼ先輩は資料のひとつを手にとり、パラパラと捲った。


「クレイド先輩が扱う従魔は、『アートフルキャット』、『ウンディーネオラクル』、『スノータイタン』の3体。いずれも100レベルを超えている」


 それぞれの従魔が(しる)されたページに指を滑らせ、エリーゼ先輩が俺に教授する。


「なるほど」と頷きながら、俺は確信した。


 ゲームとこの世界とで、ミスティ・クレイドの従魔や戦術に、差異はない。


「さて、大体の情報は伝えたかな? 次は対抗策を練ろう」

「その必要はないっすよ」


 別の資料を手にとったエリーゼ先輩が、キョトンとした顔を見せた。


「いまの説明で充分っす。どう戦えばいいか、大凡(おおよそ)見当がつきました」

「おそろしい早さだね! クレイド先輩も相当だが、ロッドくんの思考速度は尋常じゃない!」


 エリーゼ先輩が、驚きと尊敬が交じったような目を向ける。


 まあ、ミスティ・クレイドとはゲームで何度も戦っているから、差異がなければ問題ないんすよね。


 俺は内心でそう呟いた。


「エリーゼ先輩のおかげです。俺はクレイド先輩に勝つっすよ」

「ああ! 絶対に絶対にぜっっっったいに勝ってくれ!」

「約束しますけど、エリーゼ先輩、必死すぎません? なんか理由でもあるんすか?」

「ひょっ!? そそそそんなものはないぞ!」


 エリーゼ先輩が真っ赤になって、ブンブンと純銀のポニーテールを乱しながら、首を振る。


 不可解なまでに慌てているが、本人がないと言っているのだから、特に理由はないのだろう。

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