見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――10
ポリポリと頬を掻いていると、レイシーとエリーゼ先輩が、不安そうに俺を見つめていることに気付いた。
ふたりは、捨てられた子犬みたいな顔をしている。
どうしてかわからないが、ミスティ先輩の告白を受け入れたら、ふたりが悲しむような気がした。
「すみません。俺は、ミスティ先輩とは付き合えません」
自然と、俺はそう口にしていた。
ミスティ先輩が、ガーン! という擬音が似合う表情をする。
「そ、そんな……! わたくしのどこがダメなのでしょうか?」
「ダメだなんて思ってませんよ。ミスティ先輩はステキなひとです」
ただ、
「俺たちは初対面だし、お互いのことをよく知らないじゃないっすか。いきなり付き合うってなると、躊躇いますよ」
「で、では、お試し交際をしてみませんか? お互いを知る機会を設けていただきたいのです!」
ミスティ先輩がズイッと顔を近づけ、食い下がってきた。
類い希な美貌の急接近にドギマギしながら、レイシーとエリーゼ先輩のほうをチラリとうかがう。
ふたりは涙目で首を横に振っていた。
「すみません。それも遠慮したいっす」
「ううぅ……!」
どうしても諦めがつかないらしい。
ミスティ先輩は、眉を『八』の字にして、下唇を噛んでいる。
もの凄く後ろめたい気分になってきた。
どう考えてもミスティ先輩の恋心は勘違いだが、それでも思い切って告白したことに変わりはない。断るのは、やはり引け目を感じる。
気まずい思いをしていると、ミスティ先輩が必死な顔で提案してきた。
「なら! 従魔士らしく勝負で決めませんか!? 本戦の試合で、わたくしが勝ったらお試し交際、マサラニアさんが勝ったら、なんでも言うことを聞きます!」
俺は目を丸くする。
「な、なんでも言うことを聞くって、本気ですか!?」
「本気です! この恋を諦めたくないのです!」
ミスティ先輩の眉は上がっていて、眼差しは真剣そのものだ。
女の子が『なんでも言うことを聞く』と男性に言い切るなんて、相当な覚悟が必要だろう。
ここまで言ってくれたミスティ先輩を拒むのは、流石にばつが悪い。
俺は根負けした。
「わかりました。勝負で白黒つけましょう」
途端、ミスティ先輩がパアッと相好を崩す。
「ありがとうございます! 必ず勝って、マサラニアさんの心を射止めてみせます!」
ムン! と力こぶを作るようなジェスチャーをするミスティ先輩。
ミスティ先輩の勝利予告が、俺のゲーマー魂に火をつけた。
「負けませんよ、ミスティ先輩。どんな事情があろうとも、俺は本気でぶつかります」
牙を剥くように口端をつり上げると、ミスティ先輩は、ふふっ、と嬉しそうに笑った。
「そういう方ですから、わたくしは好きになったのですよ」
思わぬ切り返しに、俺は虚を突かれる。
「それでは、お暇させていただきますね?」
ペコリと頭下げて、ミスティ先輩は去っていった。
あんなに柔和なのに、嵐みたいなひとだったなあ。
「……エリーゼ先輩?」
「わかっているよ、レイシー」
一息ついていると、レイシーとエリーゼ先輩の低い声が聞こえて、俺の肩が跳ね上がる。
おそるおそる視線をやると、ふたりは据わった目で頷き合っていた。
「一時休戦ですね」
「ああ。まずはクレイド先輩対策だ」
ふたりは静かに闘志を燃やしている。
なぜかわからないが、イヤな汗が止まらない。
「色男は大変だねー」
「まったくもって女泣かせだよね」
肝を冷やす俺とは対照的に、ケイトとアクトは心底楽しそうだった。




