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見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――3

 さて、次の手はなんだ?


 俺は目を鋭くしてエッジを注視する。


 エッジは再び舌打ちするも、指示を出そうとはしない。


「ふむ」と俺は(あご)に指を当てた。


 ランスのスキルは、1:クイックランス、2:ビルドアップ、3:ニードルレイン、そして、4:不明だ。


 このうち、クイックランスはシャドースティッチによって封じられており、ビルドアップとニードルレインは、クールタイムの最中(さいちゅう)


 となると、ランスが用いることができるのは、4のスキルだけだ。


 そのスキルを用いないということは――


 高確率で、直接攻撃スキル!


『用いない』のではなく、『用いられない』。すなわち、4のスキルは、シャドースティッチで封じられている直接攻撃スキルである可能性が高い。


 もちろん、なんらかの罠である可能性も否定できないが、ジャベリンタイガーが修得できるスキルから考えるに、それはまずないだろう。


 つまりは大チャンス到来。


 俺は呟いた。


「プラン変更。いまのうちに弾数(たまかず)揃えておくか」


 ニヤリと唇を歪める俺の前で、アブソーブウィスプによるHP吸収が行われる。


 紫色の火の玉にHPを奪われるランスを見て、エッジが愕然(がくぜん)とした。


「バカなっ!? アブソーブウィスプのHP吸収は10秒に1回のはずだ!」

「ああ、その通りだ。本来なら、な」

「なら、なぜだっ!?」

「クロをよく見てみろよ」


 目を剥くエッジに説明するため、俺はクロを指差した。


 クロの胸(?)元には、宝玉が埋め込まれたネックレスがつけられている。


「装備品?」


 エッジが(いぶか)しげに呟いた。


 どうやら、クロの装備品がなんなのか、わからないらしい。


 まあ、仕方ないかもしれないな。こいつは、ガブリエル家からもらえる入場許可書がないと入れないダンジョンにあったんだから。


 そう。これこそが、レイシーと行ったジェア神殿で手に入れた、クロ用の装備品だ。


「それは『時女神(ときめがみ)のネックレス』。『装備しているモンスターのスキル、固有アビリティがもたらすスリップダメージが、本来の半分の時間で発動する』効果を付与(ふよ)する装備品だ」


「な……っ!!」とエッジが絶句する。クロが『時女神のネックレス』を装備した際の脅威を、察したのだろう。


 ブラックスライムの固有アビリティ『分裂』は、HPを回復した際に発動する。


 その条件を満たすためにアブソーブウィスプを用いているわけだが、『時女神のネックレス』があれば、HP吸収は、半分の時間=5秒に1回のペースになる。


 つまり、分身が生まれるスピードが倍になるってことだ。


『ピッ!』

『ピィッ!』


 俺が説明しているあいだに、1体目の分身が生まれた。


 エッジが、ギリリ、と歯を(きし)らせる。


 気持ちはわかる。


 直接攻撃スキルを封じられている現状、エッジが頼りにできるのはニードルレインだけだ。しかし、ニードルレインのクールタイムは8秒。クールタイム明けは遠い。


 なにもできず、クロの分身が増えていくのを、ただ眺めていなければならない。もどかしさは相当なものだろう。


『ピッ!』

『ピィッ!』


 さらに2体目の分身が生まれたあと、ようやくニードルレインのクールタイムが終わった。


「ニードルレイン!!」

『グルルル……!』


 即座にエッジが叫び、ランスが体毛を逆立てる。


 だが、あまりにも遅すぎた。


『ピッ!』

『ピィッ!』


 3体目の分身が生まれ、同時に俺は指示を出す。


「サクリファイスボム!」

『ピィィィィ……』


 3体目の分身がランスに飛びかかり、


『ピィ――――――ッ!!』


 神風特攻自爆攻撃かみかぜとっこうじばくこうげき


 ランスのHPがまたたく間に削り取られる。


『グル……ォ……』


 フラリとランスが倒れ、魔石へと姿を変えた。

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