弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――6
「いいか、クロ? 俺を追いかけて影を踏め! そしたら攻守交代、今度は俺がお前を追いかけて影を踏む。ルールはわかったか?」
『ピッ!』
「よし! じゃあ、スタートだ!」
影踏み鬼をするためには開けた場所が必要だ。
そのため俺たちは、セントリア従魔士学校の中庭に来ていた。
中庭には花壇やベンチ、噴水などがあり、小休止をとる生徒の姿も散見できる。
そんな生徒たちに好奇の目で見られながら、俺とクロは影踏み鬼をはじめた。
『ピィッ!』
「甘い!」
クロが俺の影目がけて飛び込んできたが、俺がサイドステップを踏んだことで失敗に終わる。
ペチョン、とクロが、石タイルの地面に顔面ダイブした。
『ピィィィ……ッ』
起きあがったクロが、ムムムムムゥ! と頬をむくれさせる。
「どうした、クロ! もう終わりか?」
『ピィィィッ!』
「おお、いいぞ! やる気満々だな!」
「まだまだこれからだぁ――――っ!!」と言わんばかりに伸び上がり、クロがぴょいんぴょいんと再び影を追いかけはじめた。
『ピィッ!』
「おっと、捕まっちまったか!」
『ピッ! ピィッ!』
ついに俺の影を踏むことに成功したクロは、エッヘン、と自慢するように体を反らす。
ムキになったり、喜んだり、こいつ、意外と感情豊かだなあ。なんだか可愛く感じてきたぞ。
「よっし、次は俺の番だ!」
『ピィッ♪』
「待て、クロォ――――っ!」
影踏み鬼が楽しくなってきたのだろう、クロの鳴き声がどことなく明るい。
俺の顔にも自然と笑みが浮かんでいた。
「あのひと、なにしてるんだろう?」
「さあ? 『贈魔の儀』で授かった従魔がブラックスライムで、自棄になってるんじゃない?」
中庭にいる生徒たちから憐憫や侮蔑の声が上がるが、まったく気にならなかった。
なにしろこの特訓で、ブラックスライムの必須スキルをクロが修得できるのだから。
ちなみに、そのスキルはこちら。
シャドースティッチ:魔法スキル
消費MP:10 チャージタイム:0秒 クールタイム:3分
効果:影を伸ばして相手の動きを封じる。動きを封じられた相手は、直接攻撃、回避、逃走、交代ができなくなる。
MPはマジックポイント、つまり魔力のことで、消費MPとは、魔法スキルを使う際に必要となるMPのことを指す。
チャージタイムはスキル発動までの準備時間。
クールタイムは、スキル発動後、もう一度そのスキルを発動できるようになるまでにかかる時間のことだ。
チャージタイムとクールタイムを計算に入れながら、如何にスムーズにスキルを展開していくかは、重要なプレイヤースキルとなる。
このシャドースティッチと、もうひとつのあるスキルは、ブラックスライムを用いる際に欠かせない。
それらが早々に手に入るんだから、いくら笑われたって構わないぜ! 笑いたいならいくらでも笑いやがれ! すぐにその笑み、引きつらせてやる!
30分後。
「はあ……流石に疲れたな」
『ピィ……』
俺とクロは、石タイルの地面に仰向けになって、空を見上げていた。
30分間走りっぱなしだったのだから、疲労するのも当然だ。
息が上がっているし、全身が汗でビチョビチョだ。しばらく動きたくない。
「けど、頑張った甲斐があったぜ」
寝転がったままメニュー画面を開き、クロのスキル構成画面を表示させる。
メインスキル:ポイズン スティッキー グルーミー アシッド
控えスキル:シャドースティッチ
表示された『シャドースティッチ』の文字に、笑みを抑えることができない。
マジで修得させられた! 特訓スゲぇ! まさしく育成チートだな、マスタートレーナーって!
「よくやったな、クロ」
『ピィ?』
「シャドースティッチを修得したぞ。お前が頑張ったからだ」
「いいか?」と俺はクロのほうに顔を向け、ニカッと歯を見せる。
「お前がスゲぇモンスターだってこと、俺が証明してやる! バカにしたやつらを見返してやろうぜ!」
『ピィッ!』
元気に返事をして、クロがスリスリと頬ずりしてきた。
本当、可愛いやつだなあ、こいつ。