大事な大会には、最高の状態で挑むべき。――2
次の休み。
俺とレイシーは飛鳳船でオルボス山の麓を訪れ、登山をはじめた。
オルボス山を登ること約30分。俺たちの目に、目的地が映った。
白い、石造りの神殿だ。
ギリシャのパルテノン神殿に似た造りで、平らな床に、等間隔で太い円柱が並んでいる。
「ここがジェア神殿ですか」
コツコツと踵を鳴らしながら、レイシーが固い声を出した。
辺りを警戒するレイシーは見るからに緊張している。
「そんなに気を張らなくてもいいぞ? ジェア神殿の1階層に、モンスターは出現しないからな」
「そうなのですか?」
「ああ。モンスターが出現するのは2階層からだ」
「そうですか」と、レイシーが肩の力を抜く。
「まあ、2階層に進むには、あいつらを倒さないといけないんだけどな」
俺は神殿の奥を指差す。
そこにあるのは、地下へと続く階段と、階段を挟むように立つ2体のモンスターだった。
モンスターは2体とも、鳥の頭と翼を持つ、体長3メートルほどの巨人だ。
右に立つほうは緑色で、左手に三叉槍を、左に立つほうは黄色で、右手に三叉槍を持っている。
その様は、まるで阿吽の金剛力士像だ。
ゲイルガルーダ:80レベル
サンダーガルーダ:80レベル
「ひゃうっ!!」
ゲイルガルーダとサンダーガルーダを目にして、レイシーがサッと柱の陰に隠れた。
「ロッドくんも早く! 見つかってしまいます!」
「大丈夫だ、レイシー。あいつらはジェア神殿への侵入者を阻む門番で、こっちから仕掛けない限り襲ってこないんだよ」
柱の陰から早く早くと手招きするレイシーに、プッと吹き出しながら俺は説明する。
実際、堂々と姿を晒しているにもかかわらず、ゲイルガルーダとサンダーガルーダが、俺に襲いかかってくる気配はない。
ただ、鋭い目付きをしながら、階段の傍らに立っている。
余計な心配だったと気付いたのか、レイシーの顔がカアッと赤くなった。
「も、もう~~~~っ! そういう大事なことは先に言ってください!」
プクゥっと頬を膨らませるレイシーは、少しだけ涙目だ。
「悪い悪い」と謝りながらも、恥ずかしがるレイシーも可愛いんだな、と思ってしまった。
「どちらにしろ、あいつらとの戦闘は避けられねぇよ。俺が欲しいものはジェア神殿のなかにあるんだからな」
牙を剥くように笑い、俺はふたつの魔石を放る。
「行くぞ、クロ! ユー!」
『ピィッ!』
『ムゥ!』
魔石が輝き、クロとユーが元気な鳴き声とともに現れた。
「レイシーはここにいてくれ」
「え? で、ですが……」
「あいつらはレイシーの手に負える相手じゃない」
俺はレイシーの言葉を遮る。
タイラントドラゴンとの戦いを経て、リーリーのレベルは38に上がり、レイシーの育成によって、ピートは14レベルに上がっている。
しかし、ゲイルガルーダとサンダーガルーダには遠く及ばない。戦闘に参加させるのは酷というものだろう。
レイシーはグッと唇を噛み、悔しそうな表情で「わかりました……」と頷いた。
レイシーの側を離れ、俺はクロとユーをつれて階段へと向かう。
ゲイルガルーダとサンダーガルーダが、俺たちに三叉槍の尖端を向けた。
どうやら、俺たちを侵入者と見なしたらしい。
刺し貫くような視線を真っ向から受け止め、俺は、ニィッと口端をつり上げる。
「行くぞ、門番ども。阻めるもんなら阻んでみやがれ」




