犠牲の上に成り立つ平和って言葉が、詭弁じゃなかったためしはない。――8
背中に生えているトゲが射出され、ゲオルギウスに降りそそぐ。
寸前。
「ハイヒール!」
最大HPの50%分、HPを回復させる魔法スキル、『ハイヒール』がギリギリ間に合った。
ゲオルギウスの周りを神々しい光が取りまき、HPが全快する。
直後、トゲの雨がゲオルギウスを襲った。
「『受け流し』を狙え、ゲオルギウス! さらに『ヒール』だ!」
トゲの雨に打たれながら、ゲオルギウスが頷く。
ゲオルギウスが大剣を斜めに構え、いくつかのトゲをいなした。
ソードガーディアンの固有アビリティ『受け流し』。10%の確率で攻撃スキルのダメージを無効化する、強力なアビリティだ。
続いて2発目のニードルレインが放たれるが、『目眩』と『受け流し』の相乗効果、さらにギフトダンスによる強化で、ゲオルギウスのHPは3/4以上残った。
そこでヒールが発動し、ゲオルギウスの体を白い光が覆う。
最大HPの25%分、HPを回復させる魔法スキルにより、再びゲオルギウスのHPが全快する。
『GYYYYYYY……OOOOHH!!』
タイラントドラゴンが苛立たしげに咆え、両の前足を地についた。
火属性の範囲攻撃スキル『インフェルノ』の構え。このままでは埒が明かないと思ったのだろう。クロたちを一掃するつもりだ。
「ひとつ目の山場ですよ、エリーゼ先輩!」
「わかっている、任せておけ!」
注意を促す俺に、エリーゼ先輩が不敵に笑った。
「きみにばかりいいところを持っていかれては敵わないからな、四天王の実力を見せてあげよう!」
頼もしい宣言に、思わず口角が上がる。
『ピィッ!』
そこでアブソーブウィスプのHP吸収が行われた。
クロがHPを回復し、『分裂』しようとムニョムニョと蠢き、
「クロ、スト――――ップ!!」
俺が待ったをかける。
『ピィ?』
「俺が指示するまで『分裂』は禁止だ!」
『ピィッ!』
不思議そうに首(?)を傾げるクロだったが、すぐに頷き、『分裂』を中断した。
悪いな、クロ。今回に限っては、ポンポン『分裂』してもらうわけにはいかないんだ。ゲオルギウスの負担を減らすためにな。
『GYYYYYYY……!!』
タイラントドラゴンの足もとから、赤い光が漏れ出した。
間もなく10秒のチャージタイムが終了し、インフェルノが放たれる。
まさにその直前、
「『ガーディアンシップ』!」
エリーゼ先輩が声を張り、ゲオルギウスが魔法スキルを発動させた。
クロとリーリーが、白銀のヴェールに包まれる。
『GYAAAAAAAAOOOOOOOHHHH!!』
インフェルノ発動。
大地から炎が噴きだし、津波の如く周りを侵蝕していく。
クロ、リーリー、ゲオルギウスも炎にのみ込まれた。
さらにもう一発インフェルノが放たれ、辺りは赤一色に塗り潰された。離れていても、火事場のような熱が伝わってくる。
俺たちは炎が収まるのを、固唾をのんで待った。
エリーゼ先輩とレイシーが唾を飲む音が聞こえる。
やがて炎が鎮まり、クロ、リーリー、ゲオルギウスが姿を現した。
脱落者は0。クロとリーリーに至っては、まったくの無傷だ。
「やりました!」
「ああ! よく耐えたな、ゲオルギウス!」
エリーゼ先輩とレイシーが歓喜の声を上げる。
レベル的に、クロとリーリーはインフェルノを耐えきれない。2匹が無事なのは、偏にゲオルギウスのおかげだ。
ゲオルギウスが発動した『ガーディアンシップ』の効果は、『5秒間、味方への攻撃を自分が受ける』というもの。
つまりゲオルギウスは、クロとリーリーが食らう分のインフェルノを肩代わりしてくれたんだ。
クロの『分裂』を止めたのは、味方が増えれば増えるほど、ゲオルギウスが受けるダメージが大きくなるからだ。




