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犠牲の上に成り立つ平和って言葉が、詭弁じゃなかったためしはない。――7

 俺が思案(しあん)しているうちにエナジーヴェールが発動し、リーリーの体が緑色のオーラに包まれた。


 ディフェンスオーラは自身のVITを、エナジーヴェールは自身のMNDを50%上昇させる魔法スキルだ。


 リーリーがふたつの自己強化スキルを用いたのは当然、


「ギフトダンス!」


 支援役(バッファー)を務めるためだ。


 リーリーがヒラヒラと空中で舞いはじめる。


『GYYYYYYY……!!』


 スマッシュクローが空振りに終わったタイラントドラゴンが、大きく息を吸い込んだ。


 高威力の魔法攻撃スキル『フレイムキャノン』。チャージタイムは5秒。火属性を代表する攻撃スキルだ。


 スマッシュクローは(しの)いだが、フレイムキャノンは直接攻撃でないため、シャドースティッチでは防げない。


 フレイムキャノンを食らえば、今度こそユーはお陀仏(だぶつ)だ。


 だが、手はある。


「行けますか、エリーゼ先輩!?」

「無論だ! いつでも来い!」

「よし! ユー、『憑依(ひょうい)』だ!」

『ムゥゥゥゥ!』


 ユーの体が縮み、光の玉となった。


 光の玉はゲオルギウスのもとまでフヨフヨと飛んでいき、吸収されるように入り込む。


 これがゴーストナイトの固有アビリティ、『憑依』。味方モンスターと一体化するアビリティだ。


『憑依』されたモンスターは、ゴーストナイトのステータスの50%と、残HP(どちらも端数(はすう)切り上げ)、さらにヘイト値を得る。


 これで、ゲオルギウスが倒れない限り、ユーも戦闘不能になることはない。


 同時に、タイラントドラゴンのターゲットが、ユーのヘイト値を継いだゲオルギウスになった。


 タイラントドラゴンの双眸がゲオルギウスに向けられ、口腔(こうくう)に炎が灯る。


 さあ、もう一仕事!


「クロ! ヴァーティゴだ!」

『ピィ……ッ!』


 クロが力を溜め、チャージタイムを挟んでヴァーティゴを発動させた。


 周りの景色を歪められ、タイラントドラゴンが『目眩(めまい)』状態になる。


『GYYYY……OOOOOOOOOHHHH!!』


 フラフラと頭を揺らしながら、タイラントドラゴンがフレイムキャノンを放った。


 業火(ごうか)の砲弾がゲオルギウスを襲う。


 1発目はギリギリ外れたが、2発目は直撃コースだった。


『――――ッ!!』


 大剣を盾にするゲオルギウスだったが、HPは大幅に削れ、1/2に迫ろうとしている。ヴァーティゴと、ユーの『憑依』がなかったら、戦闘不能になってもおかしくなかっただろう。


 次いで、タイラントドラゴンが身をかがめた。首の後ろから尻尾にかけて生えているトゲが、天を向く。


 5連続でトゲを発射する、物理攻撃スキル『ニードルレイン』。ゲオルギウスにトドメを刺すつもりだ。


「そうはさせん! 『ハイヒール』だ、ゲオルギウス!」


 エリーゼ先輩が指示を飛ばし、ゲオルギウスが祈るように大剣を掲げた。


 ほぼ同時、リーリーのギフトダンスが発動する。


『リィ!』


 リーリーが両手を掲げ、クロとゲオルギウスの体が緑色の光に包まれた。


 これで、クロとゲオルギウスのVITとMNDが50%、『加速(かそく)』一回分でAGIが10%上昇だ。

「こっちも仕込んどくぞ、クロ! アブソーブウィスプ!」

『ピィッ!』


 いつものように、クロもアブソーブウィスプの構えをとり、紫色の火の玉を、タイラントドラゴンにまとわりつかせる。


『GYAAAAAAAAAOOOOOOHHHH!!』


 俺たちが手を打っているあいだにチャージタイムが終了し、タイラントドラゴンのニードルレインが発動した。

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