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犠牲の上に成り立つ平和って言葉が、詭弁じゃなかったためしはない。――5

 ドラグーンケイヴは、レイヴァン山の3合目にある洞窟(どうくつ)型のダンジョンだ。


 洞窟内にはいたるところに火が灯っており、真夏日のように暑いが、1体のモンスターもいなかった。


 おそらくはタイラントドラゴンが目覚めた影響だろう。強者(きょうしゃ)を恐れるのは、生物の本能だからな。


 クリム高原に現れたアースドラゴンは、タイラントドラゴンから逃げてきたのだろう。


「――以上がタイラントドラゴンを倒すまでの手順だ」


 洞窟内を歩きながら、俺はふたりに説明していた。


 俺の説明を聞いたふたりが「なるほど」と(うなず)く。


「たしかに理論上は可能だな」

「ええ。ただ、一手のミスが全滅に繋がるギリギリの状況です」


 俺は真顔で告げる。


「命の保障はできません。覚悟はありますか?」

「当たり前だ」


 躊躇(ためら)いなく、エリーゼ先輩が言い切った。


「わたしはタイラントドラゴンを倒し、レイシーを守るために生きてきたのだ。いまさら怖じ気づいてどうする」

「それもそうですね。頼もしい限りっす」

「わたしたちは構いませんが、ロッドくんは本当によろしいのですか?」


 制服の袖をつまみ、レイシーが俺に尋ねてくる。


「これはあくまでわたしたちの問題です。ロッドくんが命を賭ける必要などないのですよ?」

「それこそいまさらだろ」


 心配そうに見つめるレイシーに、俺は肩をすくめる。


「ここまで来て『やっぱなし』なんてカッコ悪すぎる。俺だってレイシーを助けたいんだ。最後まで付き合うぞ」


 それにさ?


「燃えるだろ、女の子を守るために強敵と戦うってさ! 男にとって憧れのシチュエーションだ!」


 もちろん恐怖はあるけれど、勝算は充分ある。


 それに、俺はメチャクチャ(たか)ぶっているんだ。


 ゲームでお馴染みのシチュエーションを現実に体験できるんだ、ここで挑まないでどうする! どうせ一度()んでるんだ、ボーナスステージだと思って楽しんでやるぜ!


「困ったひとですね、まったく」

「ああ。正直、バカ者としか言えない」

「ここにきて急なディスり!」


 溜め息をつくふたりに、俺は「ええっ!?」と戸惑う。


 そんな俺の反応を見て、ふたりはクスッと笑みを漏らした。


「けど、ロッドくんらしいです」

「わたしも、気持ちのいいバカは嫌いじゃない」

「褒められてるのか、(けな)されてるのかわからねぇー」

「最大級の賛辞に決まっているだろう、マサラニアくん」


 頬を()く俺に、エリーゼ先輩が苦笑した。


「もうなにも言いません。ロッドくん、わたしを助けてください」


 吹っ切れたように微笑み、頭を下げるレイシー。


「任せとけ!」


 俺はレイシーの頭をポンポンと撫でた。

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