格上相手には、とにかく入念に準備するべし。――3
それから一週間が経ち、いよいよエリーゼ先輩との勝負の日が訪れた。
勝負の舞台となるのは、セントリアの南にある『クリム高原』だ。
向かい合う俺とエリーゼ先輩の髪を、高原を吹く風が揺らした。
「ロッドくん、ひとつ尋ねたいことがある」
「なんでしょうか?」
凜々しい顔付きをしていたエリーゼ先輩が、一旦、目を閉じ、
「どうしてレイシーがきみの応援に来ているのだ!」
ちょっとだけ涙目になりながら、俺の隣にいるレイシーを指差した。
「なにかご不満でも? ロッドくんに迷惑をかけてしまった手前、味方をするのは当然かと思いますが?」
口調こそ丁寧だが、レイシーは明らかに憤慨している。エリーゼ先輩をジト目で睨んでいるし。
「し、しかし、わたしはきみのためを思って勝負を挑んだわけで……」
「お気持ちはありがたいのですが、『ありがた迷惑』という言葉をご存じでしょうか?」
エリーゼ先輩がオロオロと弁解するも、レイシーはバッサリ切り捨てた。
うわぁ、今日のレイシー、えげつねぇ! 理由はわからんが、超怒ってる!
「レ、レイシーが冷たい……くっ! マサラニアくんめぇ……」
エリーゼ先輩が涙目で睨んでくる。図らずも、先輩のヘイトを稼いでしまったようだ。
「是が非でも、この勝負には勝たせてもらう! 行くぞ、ゲオルギウス!」
俺への敵愾心を燃やすエリーゼ先輩が、魔石を放り投げる。
現れたのは、先鋭的なフォルムの鎧に身を包んだ、2メートルを超える巨人だった。
純白の鎧には金のアクセントが加えられており、右手には、身の丈ほどもある分厚い大剣が握られている。
やっぱりこの世界でも、エリーゼ先輩の従魔は『ソードガーディアン』なんだな。
ソードガーディアンは『ソードナイト』の進化体で、光と鋼、ふたつの属性を持つ。
STR、VIT、MNDが高く、HP、INT、DEXも及第点。AGIこそやや低いが、総合的に見て高ポテンシャルと言えるだろう。
物理・魔法ともに秀逸な攻撃スキルを覚え、強化スキル、補助スキル、回復スキルまで修得可能。
初心者からも上級者からも重宝される、優良モンスターの代表格だ。
ソードガーディアン――ゲオルギウスを呼び出したエリーゼ先輩は、フヨフヨと漂うライトウィスプを見つけると、早速指示を出す。
「『フォトンレイ』!」
ゲオルギウスが左手をライトウィスプに向けた。
その手のひらに光が収束する。
光は球状になり、時間とともに体積と輝きを増していく。
そしてチャージタイムの5秒が経過したところで、レーザ光線となって放たれた。
キュン!
柱ほども太い光線は、さながら光の槍だ。
光の槍はライトウィスプを飲み込み、一瞬で消し飛ばした。
それだけでは留まらない。背後にいた複数のライトウィスプも巻き込んで、まとめて葬り去る。
光の槍が通過したあとには、5つの魔石が転がっていた。
その様を目の当たりにして、レイシーが呆然としている。
エリーゼ先輩が振り返り、俺を指差した。
「きみには万に一つの勝機もない! レイシーはやらんからな!」
宣言し、エリーゼ先輩が走り去っていく。
「万に一つの勝機もないときたか」
俺はポツリと呟いた。
傲慢なまでの自信だが、フォトンレイの威力を見せつけられれば納得できる。エリーゼ先輩は紛れもない強敵だ。
それでも、俺が抱いたのは、『畏怖』ではなく『歓喜』だった。
自然、口端がつり上がる。
「いいじゃねぇか、それくらい強くないと面白みがねぇよ!」




