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たとえゲーム廃人でも、女の子に好かれたらやっぱり嬉しい。――1

 休日の昼前。


 俺は、露店や大道芸などで(にぎ)わう、セントリアの広場を歩いていた。


 目指すのは『フロストウルフの銅像』前――レイシーとの待ち合わせ場所だ。


「30分も早く来てしまったなあ」


 ぼやき、俺は頬を()く。


 前世で女性との縁がなかった俺にとって、親戚以外の女性と外を歩くのは、はじめてのこと。しかも、その相手はとびっきりの美少女だ。


 昨日の晩からソワソワして、いてもたってもいられず、早いとわかっていながら寮を出てしまった。


「露店で飲み物でも買って、気長に待っているか」


 そう決めたところで、フロストウルフの銅像が見えた。


 フロストウルフの銅像の周りでは、行き交う人々(特に男性)がある一点に目をやっている。


 なにかあったのかと思い、近づいて――俺は歩みを止めた。


 そこにいた、天使の(ごと)き美少女に、目を奪われたからだ。


 フリルがあしらわれた純白のブラウスに、ハイウェストの水色ジャンパースカート。

 スラリとした脚を白いタイツで包み、足もとは黒いパンプスで飾っている。

 金色のロングヘアにはわずかにウェーブがかかっていて、ジャンパースカートで強調された胸は、いまにもこぼれ落ちそうだ。


 男たちの視線が引き寄せられるのも無理はない。天使ことレイシーの私服姿は、世の男性をまとめて(とりこ)にするほど魅力的なのだから。


「あ、ロッドくん、こっちです!」


 呆然と見取れていると、俺に気付いたレイシーが、ご主人さまを見つけた子犬みたいな笑顔で、ブンブンと手を振ってきた。


 我に返った俺は、「お、おう」とぎこちなく手を挙げて答える。


「こんにちは、ロッドくん。いいお天気ですね」

「あ、ああ、こんにちは。早いな、レイシー。まだ30分前なのに」

「えへへへ……楽しみでいてもたってもいられなかったのです」


 苦笑しながらペロッと舌を出すレイシー。その仕草にはあざとさがなく、ただただクッソ可愛かった。


「レイシーの私服姿を見るの、はじめてだな。エイシス遺跡の攻略では、ふたりとも制服だったし」

「そうですね。あの、ど、どうでしょうか?」


 スカートをつまみながら、レイシーが()いてくる。


 こういうやり取りははじめてで、俺の心臓はバックンバックン暴れていた。


「に、似合ってると思いますよ?」

「そ、そうですか……嬉しいです。頑張って着飾った甲斐(かい)がありました」


 レイシーが頬を染めてはにかむ。


 どうやらレイシーは、俺のためにオシャレしてくれたらしい。いじらしいほどの甲斐甲斐(かいがい)しさに、俺の顔が熱を帯びる。


「少しだけ不安でした。ロッドくん、いつもと違ってなんだかぎこちなかったので」

「俺、女の子と出歩くのがはじめてでさ、緊張しているんだよ」


「悪い」と謝ると、レイシーが目を丸くした。


「ロッドくんはカッコいいから、モテるのではありませんか?」

「全然モテないよ。恥ずかしい話だけど、女性には不慣れだ。それに、別段、カッコいいってこともないだろ?」

「そんなことはありません! 今日の格好もとてもステキです! 胸がキュンキュンしてしまいます!」


 苦笑する俺に、レイシーが興奮気味に訴えてくる。


 俺が着ているのは、ジャケット、シャツ、ズボン、シューズ――どれもシンプルなデザインのものだ。


 なにを着ていくか迷い、()をてらうよりは、と無難な格好を選んだのだが、どうやら正解だったらしい。


 まあ、考えてみれば、ロッド・マサラニアは美形キャラだから、なにを着ても似合うのかもしれない。前世の俺ではあり得ないことだけど。


「褒めてくれてありがたいけど、女の子と出歩くのがはじめてってのは本当だ」

「そうなのですか……じゃあ、ロッドくんがはじめて一緒に出歩くのは、わたしなのですね?」

「その通りだけど、なんだか嬉しそうだな、レイシー。どうした?」

「どうもしませんよ~♪」


 そう答えるレイシーは、いまにも踊り出しそうなほど楽しげだった。

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