結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――17
演習場は静寂に包まれていた。
レイシーが勝利することを、誰も想像していなかったのだろう。
レイシーも自分の勝利が信じられないように、荒い呼吸をしながら立ち尽くしている。
カツン
ガーの魔石がステージに落ちる音だけが、無音の演習場に響いた。
「……スゴい」
最初に口を開いたのはケイトだった。
「スゴいよ、レイシー! あたし、負けるだなんて想像もつかなかった!」
試合に負けたにもかかわらず、ケイトの顔は晴れやかだ。人懐っこい笑みを浮かべながら、レイシーに駆けよる。
「フェアリーアーチンが相手だからって油断してたよ! あたしもまだまだだなあ」
苦笑するケイトの言葉に触発されたように、クラスメイトたちも、レイシーを賞賛しはじめる。
「マジでビックリした! まさかあんなふうにフェアリーアーチンを用いるなんて!」
「大番狂わせね。シルヴァンさんがここまで戦えるとは思いも寄らなかったわ」
「ホント、腐らずによく頑張ったよな。ナイスファイト!」
レイシーに拍手が贈られる。普段は無表情なリサ先生も、柔らかい微笑みで拍手していた。
「わたし、勝ったのですね」
ポツリと呟いたレイシーの瞳から、涙がこぼれ落ちる。
「勝った……わたしでも、勝てた……!!」
努力が報われて、感極まったのだろう。
よかったな、レイシー。
嬉し泣きするレイシーを温かい気持ちで眺めながら、俺も拍手を贈った。
「それにしても、フェアリーアーチンを支援役にするなんて、どうやって思いついたの?」
涙するレイシーを優しく見守っていたケイトが尋ねる。
手の甲で涙をぬぐい、レイシーは答えた。
「わたしが考えたのではありません。ロッドくんが教えてくれたのです」
ケイトとクラスメイト、リサ先生の視線が、一斉に俺に向けられた。
いきなり注目されて、俺は「へ?」と目を丸くする。
「ロッドくんは頭がよくて、とても物知りなのです。リーリーの育成も手伝ってくれて……ロッドくんは、わたしの恩人です!」
レイシーの発言に、クラスメイトたちがざわめきだした。
「あいつ、ブラックスライムだけじゃなくて、フェアリーアーチンの活用法まで編みだしたのかよ!?」
「僕たちの常識を何度覆せば気が済むんだろうね。底が知れないよ、まったく」
「わたしたち、とんでもないひとのクラスメイトになったのかも……」
こうも褒めそやされると、なんだかくすぐったいなあ。
俺はポリポリと頬を掻く。
そんな俺を見つめながら、レイシーがふわりと微笑んだ。
ほころぶ花のような微笑みに、胸がドキリと鳴る。
「ほうほう、へー、そうなんだー」
俺に微笑むレイシーを眺め、ケイトがニヤリとイタズラげに笑った。
「レイシーとロッドがそういうことになっていたなんて、あたし、ちっとも気付かなかったよ」
「ふゃっ!? ちちち違いますよ!」
「じゃあ、そういう感情はまったくないの?」
「そ、それは……その……」
レイシーがうつむき、指先をモジモジさせて、チラリと俺をうかがう。
レイシーの顔は、リンゴみたいに真っ赤だ。
「いやー、わっかりやすいなー、レイシーは」
「ケケケケイトさん!?」
なぜかレイシーがアタフタして、ケイトが、にゃははは、と笑う。
ふたりはなんの話をしているんだ? レイシーはなにをそんなに慌てているんだ? ケイトはなにを面白がっているんだ?
ふたりのやり取りの意味がわからない俺は、首をかしげるほかにない。
ただ、男子たちが俺に向ける視線に、憎悪が混じったことだけはわかった。
なぜだ。




