表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/219

結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――17

 演習場は静寂に包まれていた。


 レイシーが勝利することを、誰も想像していなかったのだろう。


 レイシーも自分の勝利が信じられないように、荒い呼吸をしながら立ち尽くしている。


 カツン


 ガーの魔石がステージに落ちる音だけが、無音の演習場に響いた。


「……スゴい」


 最初に口を開いたのはケイトだった。


「スゴいよ、レイシー! あたし、負けるだなんて想像もつかなかった!」


 試合に負けたにもかかわらず、ケイトの顔は晴れやかだ。人懐(ひとなつ)っこい笑みを浮かべながら、レイシーに駆けよる。


「フェアリーアーチンが相手だからって油断してたよ! あたしもまだまだだなあ」


 苦笑するケイトの言葉に触発されたように、クラスメイトたちも、レイシーを賞賛しはじめる。


「マジでビックリした! まさかあんなふうにフェアリーアーチンを用いるなんて!」

大番狂(おおばんくる)わせね。シルヴァンさんがここまで戦えるとは思いも寄らなかったわ」

「ホント、腐らずによく頑張ったよな。ナイスファイト!」


 レイシーに拍手が贈られる。普段は無表情なリサ先生も、柔らかい微笑みで拍手していた。


「わたし、勝ったのですね」


 ポツリと呟いたレイシーの瞳から、涙がこぼれ落ちる。


「勝った……わたしでも、勝てた……!!」


 努力が報われて、感極(かんきわ)まったのだろう。


 よかったな、レイシー。


 嬉し泣きするレイシーを温かい気持ちで眺めながら、俺も拍手を贈った。


「それにしても、フェアリーアーチンを支援役(バッファー)にするなんて、どうやって思いついたの?」


 涙するレイシーを優しく見守っていたケイトが尋ねる。


 手の甲で涙をぬぐい、レイシーは答えた。


「わたしが考えたのではありません。ロッドくんが教えてくれたのです」


 ケイトとクラスメイト、リサ先生の視線が、一斉(いっせい)に俺に向けられた。


 いきなり注目されて、俺は「へ?」と目を丸くする。


「ロッドくんは頭がよくて、とても物知りなのです。リーリーの育成も手伝ってくれて……ロッドくんは、わたしの恩人です!」


 レイシーの発言に、クラスメイトたちがざわめきだした。


「あいつ、ブラックスライムだけじゃなくて、フェアリーアーチンの活用法まで編みだしたのかよ!?」

「僕たちの常識を何度(くつがえ)せば気が済むんだろうね。底が知れないよ、まったく」

「わたしたち、とんでもないひとのクラスメイトになったのかも……」


 こうも褒めそやされると、なんだかくすぐったいなあ。


 俺はポリポリと頬を()く。


 そんな俺を見つめながら、レイシーがふわりと微笑んだ。


 ほころぶ花のような微笑みに、胸がドキリと鳴る。


「ほうほう、へー、()()()()()()


 俺に微笑むレイシーを眺め、ケイトがニヤリとイタズラげに笑った。


「レイシーとロッドが()()()()()()になっていたなんて、あたし、ちっとも気付かなかったよ」

「ふゃっ!? ちちち違いますよ!」

「じゃあ、()()()()()()はまったくないの?」

「そ、それは……その……」


 レイシーがうつむき、指先をモジモジさせて、チラリと俺をうかがう。


 レイシーの顔は、リンゴみたいに真っ赤だ。


「いやー、わっかりやすいなー、レイシーは」

「ケケケケイトさん!?」


 なぜかレイシーがアタフタして、ケイトが、にゃははは、と笑う。


 ふたりはなんの話をしているんだ? レイシーはなにをそんなに慌てているんだ? ケイトはなにを面白がっているんだ?


 ふたりのやり取りの意味がわからない俺は、首をかしげるほかにない。


 ただ、男子たちが俺に向ける視線に、憎悪が混じったことだけはわかった。


 なぜだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ