結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――16
「……なにを、したの?」
しばらく立ち尽くしたのち、ケイトがレイシーに尋ねる。
「その子のSTRは4割も上がってる! ヒートハウンドが『奮闘』のアビリティを持ってるのは知っているけど、あれは1.1倍だったはず! あたしの計算では、ケロちゃんが倒れるなんてあり得なかったのに……!!」
初期モンスターを10レベルまで上げ、新しい従魔も育てているだけあって、ケイトはなかなか優秀なようだ。ヒートハウンドの固有アビリティを考慮して、戦術を組み立てていたらしい。
ヒートハウンドの固有アビリティ『奮闘』は、『HPが1/2以下になると、全ステータスが10%上昇する』ものだ。
おそらくケイトは、スピードタックルとバイトを食らってもケロは倒れず、ウォーターショットでピートを脱落させられると考えていたんだろう。
しかし、その予定は覆された。
「リーリーのギフトダンスの影響です」
役立たずだと誰もが決め付けていた、リーリーの力によって。
「ギフトダンスの効果は、『自身のステータス変化を味方全員に反映させる』です。これまでに、リーリーはビルドアップとコンセントレーションで、STRとINTを30%上げています。それを反映させることで、ピートのSTRとINTは、『奮闘』と合わせて約40%上昇したのです」
レイシーの答えに、ケイトが愕然としたように口を開けた。
フェアリーアーチンは単体では戦えないが、優良な自己強化スキルを修得する。そのため、ギフトダンスと相性がとてもいい。
フェアリーアーチンはアタッカーにはなれないけれど、優秀な支援役になれるんだ。
「くっ! ガーちゃん、ウインド!」
ショックから立ち直ったケイトが、反撃の手を打った。
ケロは倒されたが、ガーはいまだに無傷だ。
一方のピートは、すでにHPが半分以下。リーリーは火力になり得ないから、有利なのはケイトのほうだ。
いや、ケイトのほうだった。リーリーの固有アビリティさえなければ、ケイトは勝てたかもしれなかった。
迫りくる風の渦。
それを、ピートがヒラリと躱す。
ケイトが目を剥いた。
「ここで回避!?」
「失念されているようですが、フェアリーアーチンの固有アビリティは『加速』。その効果は、『10秒毎にAGIが10%上昇する』です。当然、ギフトダンスにより、AGIの上昇もピートには反映されています」
そして、
「ギフトダンスの発動時、わたしとケイトさんのやり取りを含め、戦闘時間は30秒を過ぎていました。リーリーの『加速』が3回発動していたため、ピートのAGIも『加速』3回分上昇したのです」
フェアリーアーチンの最たる強みが『加速』だ。
なにもしなくても、時間経過でAGIが上昇する固有アビリティ。ギフトダンスを習得できるモンスターに、ここまで強力な自己強化能力を持つものは、ほかにいない。
だからこそ俺は、ギフトダンスをリーリーに修得させたんだ。それが、リーリーにとって最良の育成になるから。
ピートのAGIは、『奮闘』の効果と合わせて約1.45倍になっている。
ウインドを回避できたのは偶然なんかじゃない。レイシーの作戦が功を奏したんだ。
「ホ、『ホークアイ』!」
焦りを滲ませつつ、ケイトが指示を送る。
自身のDEXを30%上昇させるスキル『ホークアイ』をガーに使わせ、ピートのAGIに対抗しようと考えたんだろう。
「『ファイアバレット』です!」
『ワウッ!』
ホークアイの準備のために目を細めたガーに向けて、ピートが炎の弾丸を発射した。
先制効果を持つ炎属性魔法スキル『ファイアバレット』が、ガーに炸裂する。
メニュー画面を見るケイトが「うう……!」と呻いた。
強力な固有アビリティ『飛翔』を持つ分、スカイホークのステータスは高くない。特に、VITとMNDは、弱点と言えるほどの低さだ。
ガーのHPバーは半分になっているだろう。
「続いてファイアボール!」
レイシーが追い込みをかける。ガーの残りHPを削るべく、ピートに指示を出した。
追い詰められたケイトは、ホークアイが発動した直後、ガーに向けて叫んだ。
「フェザーショット! 急いで!」
『クワァッ!』
ケイトが反撃を命じるが、それでも遅かった。
「ピート!」
『ガウッ!』
大きく息を吸い込んだピートが、火球を放つ。
「避けて!」
ケイトが一縷の望みに縋るが、勝利の女神が微笑むことはなく、
『クワァ……ッ!!』
火球の直撃を受けたガーが、フラリと揺れて魔石に戻った。




