結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――9
『ピィッ!』
俺が作戦を振り返っているあいだに時間が経過し、アブソーブウィスプによるHP吸収が行われ、『分裂』の効果によりクロの分身が現れる。
数秒遅れて、ロケットパンチRのチャージタイムが終了した。
メタルゴーレムの右拳が、クロ目がけて射出される。
「テンポラリーバリア!」
『ピィッ!』
クロの分身が、俺の命令に従ってテンポラリーバリアを行使し、クロ本体を背中に庇う。
クールタイムが過ぎていないため、クロ本体はテンポラリーバリアが使えないが、登場したばかりの分身なら可能だ。
仄暗い膜をまとった分身が、クロ本体に向けられた右拳を受け止める。
右拳がメタルゴーレムのもとに戻っていくなか、俺は声を張った。
「まだ終わりじゃない! 左拳がくるぞ!」
俺の指摘どおり、メタルゴーレムが左拳をクロに向ける。
メタルゴーレムの4つ目のスキル『ロケットパンチL』は、ロケットパンチRの次にしか用いられない物理攻撃スキルだ。
その威力はロケットパンチRと同じだが、チャージタイムは0秒。
早い話、連続攻撃だ。
クロ本体に迫る左拳に対し、俺は分身に指示を出す。
「そのまま本体を守れ!」
『ピィッ!』
「任せとけ!」と言わんばかりに胸(?)を張り、分身がクロ本体の盾になる。
『ピゥッ!』
わずかなHPしか持たない分身は、拳の一撃で消滅してしまったが、いまだにクロはノーダメージだ。
「そろそろだぞ、レイシー」
「はい!」
メタルゴーレムがロケットパンチRを再度放とうとするなか、俺はレイシーに声をかけた。
次の攻撃のあと、レイシーの出番がくるからだ。
「手順どおりに動けば大丈夫だ、頼んだぞ」
「任せてください!」
緊張しているが、テンパってはいない。これなら問題ないだろう。
レイシーが指示を飛ばす。
「リーリー、『ウインド』の準備です!」
『リー!』
リーリーが高く手を掲げた。
風属性の魔法攻撃スキル『ウインド』の構えだ。
リーリーがウインドの準備をしているあいだに、ロケットパンチRが発射された。
今度こそ、クロに防御手段はない。
『ピゥッ!』
クロが飛来した拳に殴られる。
俺はメニュー画面を確認した。
クロのHPは削られたが、3/4は下回っていない。
「よし、計算どおりだな」
俺の頭には、ダメージ計算式と、メタルゴーレムのステータスも刻み込まれている。
現在のクロのVITを踏まえると、ロケットパンチR一発で、HPが1/4削られることはない。
わかっていたんだが、結果が出るまでは不安になるものだな。
俺はふぅ、と息をついた。
ちなみに、ロケットパンチLがくることはない。ロケットパンチLのクールタイムが20秒あるからだ。
クールタイムまで同じにしたら、実質、ロケットパンチRが連続攻撃スキルになるから、当然の設定だろう。
クロがダメージを負ったことで、ヘイト値がリセットされる。
「レイシー!」
「いまです、リーリー!」
直後、最高のタイミングでリーリーの『ウインド』が発動した。
リーリーの手から放たれた風の渦が、メタルゴーレムを襲う。
しかし、メニュー画面に表示されたメタルゴーレムのHPバーは、1ミリ程度しか減っていなかった。
フェアリーアーチンの攻撃性能の低さを考えれば当然だろう。まともなダメージを与えられるはずがない。
だが、それでいいんだ。
メタルゴーレムの視線がリーリーに向けられる。
リーリーがメタルゴーレムにダメージを与えたことで、ヘイトを得たからだ。
それこそが俺の狙い。
はじめからまともなダメージなんて期待していない。メタルゴーレムのターゲットを、リーリーに移すことが本命だ。




