努力するときは、目標設定が大事。――13
「まさか、ここまで苦戦するとはね……」
勝負を終え、フローラが額に浮かんだ汗を拭った。
「正直、全員残して完勝できると思ってた。あんたたちのこと、舐めてたみたいね」
「今日は負けちゃったけど、次はどうかわからないよ?」
「慢心していたら追い抜いちゃいますからね!」
「上等よ。絶対抜かせてやらないから」
ケイトとレイシーがフンスフンスと鼻息を荒くして、フローラが不敵に笑う。
3人とも、今回の勝負に刺激を受けたらしい。いい傾向だ。意識するライバルがいるほうが成長が早いからな。
ケイトとレイシーはフローラを追いかけようと、フローラはケイトとレイシーに追いつかれまいと、努力するだろう。
「いい試合だった。3人とも想像以上で驚いたぞ」
3人のやる気に満足しながら、俺は歩み寄る。
「フローラは作戦の組み立て方と読みの精度が抜群だった」
「ふふんっ! そうでしょう?」
「ただ、課題も見つかったよな」
慎ましい胸を自慢げに張るフローラに苦言を呈する。フローラはむっとしたように眉根を寄せたが、すぐに「そうね」と認めた。
「試合の終盤。ピートのバーストタックルがモルモルに届くとは思ってなかったわ。その所為で次の指示が遅れた」
「ああ。フローラの課題は『予想外の事態に耐性をつける』。ようは冷静さを失わないことだな」
フローラが「ええ」と素直に頷く。フローラはツンデレだが、それ以前に従魔士だ。『成長したい』・『強くなりたい』という気持ちが、ツンデレ特有の反抗心を上回っているのだろう。
好ましい反応に頬を緩め、俺はレイシーとケイトに向き直る。
「レイシーもケイトも最後まで諦めないガッツがスゴかった。劣勢に陥りながら、それでもモルモルを倒したしな」
ただ、
「ピートが倒されてから、レイシーはリーリーによる支援しかできなくなった。まあ、そういう役割分担だから仕方なくはあるんだが……」
「戦闘をピートに頼りすぎなんですね」
「ああ。そうだ」
ちゃんとレイシーはわかっているようだ。
リーリー=フェアリーアーチンは優秀な支援役だが、攻撃スキルを一切習得できない。つまり、火力であるピートがいなくなると、攻め手を失ってしまう。
「ケイトは攻撃力が足りないのが問題だ。ガーガーがクラクラにサンダーボルトを放った場面があったが、4倍弱点であるにも関わらず倒しきれなかった。ケロも攻撃面で目立った活躍はしてないしな」
「ガーちゃんもケロちゃんも、ちょっと中途半端なところがあるしね」
ケイトが「ぬぅ」と唇をひん曲げる。
ガーガー=ハイウインドイーグルは、『直接攻撃を受けない』という優秀な固有アビリティ『飛翔』を持っている分、ステータスが全体的に低い。
また、盾役を務めるケロ=トードゲルは、他の盾役向きモンスターと比べれば、耐久方面で劣っていると言わざるを得ない。
ガーガーには『飛翔』、ケロには盾役にしては高い攻撃力と、それぞれ優れている部分はあるのだが、それらを活かし切れていないのが現状だ。
つまり――
「レイシーもケイトも、いまのパーティーでは限界があるってことだ。……どうすればいいか、わかるか?」
レイシーとケイトが力強く頷く。
「足りないなら補えばいいんです」
「あたしたちの課題は、『3体目の従魔を手に入れて育成する』だね」
ふたりともよくわかっている。俺は笑みとともに「ああ」と答えた。
3人とも自分の欠点を素直に認めている。現状を受け入れている。
そういうひとたちは強くなる。現実を直視し、それでも理想を目指すから強くなれるんだ。どうやら3人の心配はいらないみたいだな。
となると……今度は俺たちの番か。
ひとつ頷いて振り返ると、エリーゼ先輩、ミスティ先輩と目が合った。ふたりとも、闘志が漲った凜々しい笑みを湛えている。
「ロッドくん、胸を借りるよ」
「学生選手権で敗れてしまいましたからリベンジです!」
気合充分な先輩たちに、俺も口端を上げた。
「ええ。俺も負けません」
レイシーたちに触発されて、俺も先輩たちも燃えている。
より強くなるために、俺と先輩たちも課題を見つけよう――勝負を通してな。