弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――11
「ふたりとも準備はいいかい?」
ステージの両端に立つ俺とカールに、リサ先生が確認をとる。
「うっす!」
「いつでも構いません」
俺とカールがリサ先生に答え、
『ピッ!』
『グルルル……』
およそ30メートルの距離を置いて睨み合うクロとカイザーが、臨戦態勢をとった。
闘争心を高める俺たちを見て、リサ先生が静かに右手を上げた。
「――はじめ!」
号令とともにリサ先生が右手を振り下ろし、カールがカイザーに指示を出す。
「こんな茶番、すぐに終わらせてやる! カイザー、『バイト』だ!」
『ガウッ!』
カイザーが応え、並んだ牙を見せつけながら、クロに突進してくる。
鋭い牙で相手に噛みつく、物理スキル『バイト』。
威力は低いが、その分チャージタイムが0秒の、直接攻撃スキルだ。
クロに迫るカイザーを見据えながら、俺は今日までのレベル上げで確認した、「ゲームとこの世界の、戦闘における差異」について振り返る。
まずはAGIに関して。
アクティブタイムバトルシステム(常に時間が流れている、リアルタイム制の戦闘システム)を採用しているファイモンでは、AGIが高ければ高いほど、ひとつの行動を終えてから次の行動を起こせるようになるまでの待ち時間が、短い。
つまり、AGIは行動機会の数に影響する。
しかしこの世界では、AGIは単純な行動速度に影響しているようだ。戦闘システムなんてものがないのだから、当然ではあるだろうけど。
次に直接攻撃スキルに関して。
ゲームにおける直接攻撃スキルは、ほかの攻撃スキルと同様、発動と同時にダメージを与えられる。
だが、『距離』という概念が存在するこの世界では、直接攻撃スキルの発動からダメージを与えるまでに、わずかに時間がかかる。
直接攻撃を行う場合、相手に接近する必要があるということだ。
このふたつの差異がなにを意味するか?
それは、相手モンスターのAGIが自分の従魔より高くても、従魔士としてのスキルで補えるということ。
そして、直接攻撃スキルに対して、妨害する機会があるということだ。
「クロ、シャドースティッチ!」
『ピッ!』
だから、俺は即座に指示を送った。
クロの影がウネウネと伸び、触手のように地面を這う。
影の触手はまたたく間にカイザーの足もとに到達し、絡みつく。
動きを封じられ、カイザーのバイトは不発に終わった。
「なにっ!?」
「バイトは接近するまでに時間がかかる。チャージタイムが0秒のシャドースティッチなら、充分に阻止できるぜ」
驚きに目を剥くカールに、俺はニヤッと笑ってみせる。
カールがギリッと歯を軋らせた。
「たった一度凌いだくらいで調子に乗るな! 『エレキチャージ』だ、カイザー!」
続くカールの指示で、カイザーがグッと力を溜める。
雷属性攻撃の威力を50%上昇させる魔法スキル、『エレキチャージ』。
攻撃の前に強化スキルを用いる――定石のひとつだ。
だが、エレキチャージには5秒のチャージタイムがある。そのあいだに、こちらも一手打たせてもらおう。
「クロ、『ヴァーティゴ』をかけろ!」
『ピィ……ッ!』
クロもカイザーと同じく力を溜めて、3秒のチャージタイムを挟み、魔法スキルを発動させた。
カイザーの周りの景色がグニャリと歪み、カイザーの体がフラフラと揺れはじめる。
「『目眩』を引き起こすスキルか!」
「ご名答」
『目眩』とは、『回避不可』の追加効果を持たない攻撃スキルが、50%の確率で外れてしまう状態異常だ。
『目眩』が持続する30秒間、カイザーの攻撃性能は大きく削られたことになる。




