表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/219

プロローグ

 流石(さすが)7日連続徹夜(ななてつ)はやりすぎだったらしい。


 どこともしれない森のなか。


 目の前には、鉤爪(かぎつめ)の生えた、腕みたいな枝と、目と口のような(うろ)を持つ、木のバケモノが立っている。


 明らかに幻覚(げんかく)だ。なにしろ俺は、会社のデスクで睡魔(すいま)や疲労と戦いながら、ノルマをこなすために残業しているのだから。


 いやあ、睡眠不足ってのは恐ろしいなあ、こんな幻覚を見てしまうなんて。


『OOOOOOHHHH!!』


 参った参ったと頭を()いていると、樹液かヨダレか定かじゃない液体を口からこぼしながら、木のバケモノが突進してきた。


 幻覚にしてはもの(すご)くリアルだ。獲物に飛びかかる捕食者そのままじゃないか。正直、ビビる。


 まあ、どうせ幻覚なんだし別にいいか、食われればショックで目覚めるかもしれないし。まだまだノルマは残っているんだ、早く起きないといけないしな。


 なんて思いながら、俺はその場に尻餅をついたまま、うんうん、と(うなず)く。


 木のバケモノの鉤爪が、俺の体を引き裂く――


 寸前。




「フレイ、『ファイアブレス』だ!」




 横合いから放たれた業火(ごうか)が、木のバケモノをのみ込んだ。


『OOOOOOHHHH……!!』


 木のバケモノが慟哭(どうこく)のような断末魔(だんまつま)を上げる。


 俺は口をポカンと開けながら、気付いた。


 肌をチリチリと焼く、業火の熱。

 鼓膜を震わせる、木のバケモノの断末魔。


 ここまでリアルな幻覚、あるはずがない! 目の前で起きているのは現実だ!


 じゃあ、ここはどこだ? どうして、あんな木のバケモノがいる? 俺はどうなってしまったんだ?


「無事か、ロッド!」


 業火が放たれた方向から、男の声がする。


 そちらに目を向けて、俺はまたギョッとした。


 男が、2足歩行の真っ赤な恐竜を連れていたからだ。


 常識(ばな)れした出来事の連続で声を失う俺に、男が続ける。


「まったく! 森にはモンスターが生息しているんだから、『従魔(じゅうま)』も連れずに入るなんて自殺行為だろう!」


 男のセリフに、俺はハッとした。


 このセリフ、聞き覚えがあるぞ! それに、いま気付いたけど、このひとが連れている恐竜と、俺を襲おうとした木のバケモノも、見たことがある!


 まさかと思いながら、俺は近くにあった泉に駆けよって、自分の顔を映してみる。


 黒い短髪に、黒い切れ長の瞳。


 シュッとした顔立ちは、『爽やか系イケメン』と呼んで申し分ない。ぽっちゃり系な俺の、()()()()とは雲泥(うんでい)の差だ。


 この顔、間違いない! 『ファイモン』の主人公、『ロッド・マサラニア』だ!


 ここまできて、俺はようやく事態を把握(はあく)した。


 俺は、ファイモンの――『ファイティングモンスター』の世界に転生したんだ!





 ファイティングモンスター。通称、ファイモン。


 世界中で大人気の、モンスター育成系RPG。


 プレイヤーは、モンスターを使役する『従魔士(じゅうまし)』となり、育成したモンスターを用いて戦う。


 登場するモンスターは、なんと600種類以上。


 倒したモンスターは新たな仲間――『従魔(じゅうま)』として使役することができ、コレクター要素も売りのひとつになっている。


 また、オンライン通信により、別のプレイヤーとの対戦や、タッグプレイ、パーティープレイ、従魔の交換も可能。


 すでに8シリーズ発売されていて、あまりの人気に国際大会が開催(かいさい)されるほどだ。


 俺もまたファイモンのヘビーユーザーで、シリーズ1作目から楽しませてもらっている。





「どうした、ロッド? 狐につままれたような顔をして。『フレンジートレント』に襲われて(ほう)けているのか?」


 俺がファイモンの概要(がいよう)を思い出していると、真っ赤な恐竜――おそらくは『フレイムサウルス』――を連れた男が声をかけてきた。


 俺がロッドだとすると、このひとは多分……


「な、なんでもないよ、オーグさん!」

「……本当にどうしたんだ、ロッド? 実の父を『さん』付けなど……頭でも打ったのか?」

「いや、本当になんでもないって!」


 (いぶか)しげに眉をひそめるロッド(おれ)の父親、オーグさんに、俺は、あははは、と誤魔化(ごまか)すように笑う。


 笑いながら、俺は現状を整理する。


 ここがファイモンの世界だとしたら、俺がいるのは『レドリア王国』にある『トキルハの森』か。


 オーグさん――父さんが倒したフレンジートレントは、手のひらサイズの結晶、『魔石(ませき)』になっている。ファイモン最新作のオープニングイベントそのまんまだ。


 おそらく、これはラノベやマンガでよく見る異世界転生で、現実世界の俺は死んでしまったのだろう。


 たしかに死んでもおかしくない仕事量だったけど……マジで死んじまったのかよ、俺……。


 俺はショックに打ちひしがれ――ふと思った。


 待てよ? よく考えたら、この状況ってラッキーなんじゃないか?


 もう、ブラック企業で仕事()けにされることはない。そのうえ、ファイモンをやりこんでいる俺には、ゲーム知識が豊富にあるんだ。


 ゲームの知識がこの世界でも通用するとしたら、俺は従魔士として大成功できるんじゃないか?


 なにより、大好きなファイモンの世界で暮らせるんだぞ? こんな幸せがほかにあるか?


 いや、ない!


 俺はグッと(こぶし)を握った。


 よっし、決めた! どうせ1度死んでるんだ! 俺は、ファイモンの(この)世界を楽しみ尽くしてやる!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ