授業は異世界でも続く
自分の能力を理解することが、成長への第一歩。
俺の能力は、右手に掴んだものを消滅させ、なんかうまいことすると再出現させる能力らしい。
「まずは自分の能力をコントロールできるようになりなさい」
と星の婢は言った。
「消したいものだけを消して、また出したいものだけを出せるようになりなさい」
というわけで俺は、婢の研究室で小物を握っては手汗で濡らす作業をしていた。
消そう消そうと思うと、不思議なことに消えないものだ。
逆に、目についたものをパッと掴むと上手く消せる。
そのことに気づいたのは、ブンブンとうるさい羽虫を潰そうとして、跡形もなく消してしまったときだった。
なんかの拍子にまた手から出てきたらやだなぁ。
杯をなにげなく手に取ったり置いたりしていると、婢に呼ばれた。
「お前、夕餉にせぬか?」
もうそんな時間か……と思い椅子から立ち上がると、ふっと体の支えが消えた。
椅子が無かった。
「あー……」
「なんじゃいらんのか?」
「今行く!」
椅子のことは後で考えればいいか。
俺は虫が突然出てこないように念入りに手を洗った。
「調子はどうだ、力の扱いには慣れたか」
「全然思い通りにいかないな」
スプーンでシチューを口に運んでいると、急にスプーンが消えた。
深くため息をついて食事をやめて皿を返そうとすると、左手に握られたスプーンがあるのに気づく。
どうやら注意を向けると消え、どうでもよくなると戻ってくるらしい。
右手の物が消えて、左手から戻ってくるらしい。
掴めてきたが、消そうと思ってないものが不便すぎる。
そこで逆に(スプーン消してやる……)と念じながらシチューを食べてみる。
すると、消えない。
完全に理解した瞬間である。