授業中に異世界に呼び出される人の身になってほしい
「お前、召喚される直前のことを覚えているか」
星の婢が俺に尋ねた。
「ああ、覚えている」
俺は元の世界では普通の男子高校生だった。
昼飯を食べたあとの5時間目、睡魔に抗えず、教科書を立てて机に突っ伏したのが最後の記憶だった。
気づいたらこの魔女の部屋、魔法陣の中にいた。
「ちょっと居眠りしたんだったな」
俺は要点だけを言った。
「つまり、お前は死んでいない。生きている」
「知ってる、ごらんのとおり生きてるからね」
俺は元気さをアピールするため腕をグルグル回した。
「そういうことを言いたいんではない。お前は正規の手段で転生したのではない、と言っているのだ」
「正規の転生って死んだ人間だけができるのか」
「そうだ。転生候補として人気があるのは若くして事故で死んだ人間」
「どうして俺は死んでないのにここに来たんだ」
「それは規定をちょいちょいっといじって、だな」
「そういう脱法行為を咎める警察はこの世界にはいないのか?」
「いつの世もどこの世も、こういうのは黙ってするものだ」
婢はニヤリと笑った。不気味なような、茶目っ気があるような顔だ。
「俺は帰れるのか?」
「方法が無いでもない」
「じゃあ帰らせてくれよ」
「なら、言いつけに背かないことだ」
「何をすればいいんだ」
「話が早い」
待ってましたとばかりに婢。
「お前には殺し合いに参加してもらう」
「はぁ、そこで負けて死んだら元の世界の俺が目を覚ますんだな」
「何を寝ぼけたことを。魂が死んだら肉体は二度と目覚めぬ」
「そんなのやってみないとわからないだろ」
「我がどうやってお前を向こうの世から連れてきたと思う? 垣間見ることなど造作もない」
婢は続けて言う。
「死ねば帰れると言い張り結局命を落としたお前のような聞かん坊は、ここ100年で20は下らん」
「はったりは効かないね」
「ならこの場で首でも掻っ切ってみるか?」
さすがにそこまでの度量はない。
この世界から退場するにしても、もう少し見聞を広げてからでも悪くないだろう。
「殺し合いって具体的に何するんだ」
「この世界の術師は、異世界召喚した生物を戦わせてその技量を競う」
「ポ○モンみたいなもんか」
この一言は婢に無視された。
「その評議会は年に一度、帝都で開かれる。前回はひと月前に終わったばかり。お前には来年の評議会を目標に能力を磨いてもらう」
「能力を磨くって、どうやって」
「まずはこの世界の異能の仕組みを学ぶところからだ」
異世界に来てまで授業受けんのかよ……。
「安心しろ、お前の世界の人間は概して出来がいい」
他世界の人間と受験戦争を繰り広げた先人の苦労がしのばれる。