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神命を担う者 ~紅瞳の探究者~  作者: 甘路
第1章 叡智の破片
8/12

救済

ついに魔鬼とも決着がつきましたね…

魔鬼との戦闘を終えた僕は直ぐに母さんの元へと駆けつけた。


「母さんっ!は、早く病院に行かないと!」


母さんの左手は魔鬼によって切断され無くなっている。切断面から血が滴り、その出血量が怪我の深刻さを物語っていた。


僕は母さんの体を持ち上げ、なるべく負担のかからないよう瞬走で駆ける。病院までは1分くらいで着くだろうか。今もなお母さんの左肩からは血が滴っている


「母さん、もう着くから死なないでっ!」


僕は返事のない母さんに不安を抱きながら必死に駆け続けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーカゴメ村 病院ー


私の名はリン・アドラー  黒髪に長身、のエリートお姉さん!

この村ではそれなりに名が通った医者である!まあ治癒魔法が使える医者がこの村に私しかいないから当然なんだけどね!


けどこの村で治癒魔法を使う機会なんて滅多にない…

というのも探究者は教会に行けば怪我を無償で直してもらえるからだ…

大体の患者さんは風邪を引いたとか足を痛めたとかそんなもんで治癒魔法の出番なんてないのだ…


「あーもうっ!私の存在意義はどこにあるんだーっ!」


と、溜まり続けたストレスを吐き出す。

しかしここは病院…


「リン先生! お静かにっ! 患者さんが寝てるんですよ!?」


怒られて当然なのだ。


「うっ… す すまんなエルザ けど私だってたまにはこの溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたいのだよ いっそ探究者に依頼してテロを起こしてもらえば…」


「だめです!何考えてるんですかまったく…」


「じゃ、じゃあエルザを私の発散相手に…」


リンは両手の指を滑らかに動かしながらエルザへと近づく…

しかしエルザに拒絶されあっさりとあきらめる


「近寄らないでください! 気持ち悪い」


「うぅ…エルザちゃんびどいよぉ」


リンとエルザのじゃれ合いにも幕が下りそれぞれが各自の持ち場へと戻る。

リンはせっかくの暇つぶしが居なくなったことを残念に思いまた暇つぶしが来ないものかと思案し始める。


その時だった、探究者と思わしき魔力反応が二つ。

高速で村へと侵入した。

(これは…瞬走だろうか)


まあ探究者だし、病院には来ないか…

しかし魔力反応は病院へまっすぐに進んでくる。


「あれ…?」

二つの魔力反応は病院のドアを盛大な勢いで開き姿を現す。

そこには片腕をなくした女性とその女性によく似た女の子の姿だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


栗色の髪の女の子はドアを蹴破ってそのまま声を張り上げる。


「母さんをっ! 助けてください! 早くしないと死んじゃうッ!」


あれ、男の子の声だ。女の子じゃなかったのか。

いや、そんなことはどうでもいい今は目の前の患者が優先だ。


「少年! 事情は後で聞く その女性をそこの手術台に乗せてくれ」

「はっ はい!」


リンはその女性に手を置き身体検査をする。

やっぱり…血が足りてない。まずは治癒魔法で止血して、傷口を塞ぐ、そのあとに輸血といった感じで大丈夫だろう。


「せ 先生!母さんは たすかりますか?!」


少年は今にも泣きそうな顔でリンに尋ねる。


「ああ もちろん!私にかかればこんな傷朝飯前ってもんよ!」


リンは気丈に振舞うことで少年を安心させる。

実際、もう少し遅かったら出血で死んでいただろう。

まあ、でも朝飯前なのは本当だけどね!


リンは治癒魔法を行使する。

リンの周りが光に包まれあたりが緑色に包まれる。

リンの治癒魔法は傷口の神経細胞を修復し、筋肉や骨の断面を微量だが再構築していくそして細胞を活性化させることによって細胞分裂の速度を爆発的に上昇させる。それにより皮膚細胞を新しく作り傷口を閉じていく。

(よし…止血は完了っと)


「エルザ!輸血用の血取って!」


「はい、どうぞ」


「助かる」


続けてリンはこの女性に適応する血液を輸血し始める。

これまでの作業を20秒ほどで完了させる。

リンの技量に関してはエルザも素直に認めている、これでもリンの腕前は治癒魔術師の中でも上位に位置しているのだ。


「少年 もう安心だ 君の母さんは死なないよ」


リンは少年にそう言い白い歯を見せながら二カッと笑った。


「あっありがとうございました」


それに応じるように、少年も満面の笑みで、どこか安堵したように笑うのだった。



「そこのベットに寝かすから 君も隣で寝るといい 事情は明日で構わないからさ」


「ありがとうございます!」


こうして早くも謎の二人組の治療は終わりを告げるのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



つぎの日、リンは少年の様子を見に行く。

少年は、母親の手を握り、その膝に頭を乗せ眠っていた。

夜通し看病していたようだ。


「助けていただきありがとうございました。」


「おうっ うわぁ!…ってもう起きてらっしゃったんですね」


「はい、おかげさまで…」


少年が寝ていた間に母親の方は目を覚ましたようだな。

魔力も乱れていないし体の調子は完全によくなっているみたい。


「とりあえず自己紹介からね 私はリン・アドラー この村で働いてる医者よ あと敬語は余計よ」


「は、はい…わかったわ 私はケリー・ワイト 元探究者でこの子の母親 それでこの子はシャーロット・ワイト 先月に半齢の儀を終えたばかりよ。」


「えっ…てことは7歳?本当に?」

リンは驚きを隠せなかった。なぜなら7歳になったばかりの子供が瞬走を使った所を見ているから。

普通ならあり得ないことだ。普通なら。


「えぇ 正直私も信じられないわ そのあたりも含めて話すわね」


こうしてケリーはリンに事の顛末を話した。シャーロットが魔力操作の天才であったこと。

そして魔鬼に襲われていた自分を助け魔鬼を討伐して見せたこと。リンは話だけ見れば作り話だと鼻で笑っただろうが話しているのがその母親なのだ。信じざるを得ない。


しばらくして話を終える。


「へぇ~こんなにかわいい子がねえ まあけどお母さん思いのいい子じゃない そんなに心配しなくても大丈夫よ」


「そうだといいんですけど… あと可愛いって言うと拗ねるので気を付けてくださいね」


「いっちょ前の男ってか こんなちっこい癖に生意気だな」


そういってリンは豪快に笑う

そんな女子トーク?に花を咲かせているとシャルロットが目覚める。


「ん…ここは…」


「シャル おはよう」


「かっ…かあさん!」


シャルロットは母親にかけられた声に思わず泣いてしまう。

強大な力を持っていても心はまだ子供なのだ。

もう二度と聞けなかったかもしれない声 それを聞いたシャルは極度の緊張状態から解放され泣き続けた。


しかしそれはシャルだけではない。ケリーもまた涙をながしてシャルを抱きしめていた。




「もう 大丈夫?」


「うん…」


お互いに生きていることを実感する。それだけですべてが満たされていった。


「ありがとうシャル あなたのおかげで死なずに済んだわ」


ケリーは改めて感謝を伝える。


「けど 左腕が…」


しかし責任感を感じていたのはシャルロットも同じだった。


「ええそうね けどこれはシャルの責任なんかじゃない、私が弱かったから負けた それだけよ だからシャルは何も責任なんて負う必要はないのよ?」


「そう…なのかな けど僕が強ければ母さんは無傷だった!」


ケリーは一瞬だけ困った顔を浮かべたがすぐに笑みを浮かべてこう言った。


「シャル 仮定の話なんてしてもしょうがないわ シャルが強かったから私は左手だけですんだ。またこうしてシャルを抱きしめられたの これ以上何も望まないわ」


母親として子供がほぼ無傷で済んだ。これ以上の幸せはない。しかしシャルロットには未だ親の気持ちがわかるはずもなかった。


「わかったよ… けど僕 絶対強くなる!母さんを守れるくらい!」


シャルロットは声高々に宣言して見せる。

――もう後悔しないために。

――己の力で大切な人を守るために。


「ふふ わかったわ 楽しみにしてるわね 未来の探究者さん」


ケリーは成長した息子に喜びを感じ微笑むのだった。













読んでいただきありがとうございました。


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