訓練の成果
本を見つけた日から一か月ほどが経った。
今日は母さんと森林に来ている。
自主練の成果を見てもらうのだ!
一か月の間、僕はひたすら魔力循環の練習に加え教えてもらった魔力操作を練習していた。
そのおかげか最大魔力量も増えて未来視の負荷にも6回は耐えられるようになっていた。
ふふふ、魔力が枯渇しては気絶するを繰り返し続けたなんて母さんが知ったらどうなることやら…未来視でみればわかるだろうけど見れるのはせいぜい15秒先まで、15秒前に見たってもう手遅れだろう…
「じゃあ見ててよ母さん!」
「わかったわ シャルがどのくらい成長できたか見せてちょうだい!」
まずは手刀からだ。右手の指をまっすぐ伸ばし、右手全体に魔力を溜めるけどそれだけではだめだ。
手刀は魔力の力で手を刃物のように鋭くする魔技だ。だから【突く】のではなく【斬る】感覚
右手手刀部分に魔力を集中させる よし… これなら…
僕は右手を後ろに引き攻撃の構えをとる
左足を前に踏み込む
重心を左足に移し
右手に全体重をかけ
右手を突き出す
そして目の前の大木を斬る
――否、切断する。
真っ二つに切断された大木はシャルへ向かって沈む
しかしシャルロットは動くつもりなど毛頭なかった。
「シャル! 危ないわ!」
ケリーはシャルロットを助けるため足に魔力を溜める
刹那。ケリーはシャルロットがこちらを見ている事に気付く。
「――母さん、大丈夫。」
「えっ…?」
そう言ってシャルは再び右手を前に出し再び魔力を溜める
そして放出――。
≪魔力波≫によって大木は猛烈な轟音を伴い内部から崩壊する。
森林に寸刻の静寂が訪れる
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しかし静寂は栗色の髪の少年によって断ち切られる。
「どうかな 母さん」
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ケリーはシャルロットの成長に驚きを隠せなかった。
本来、手刀は敵の目を潰すときや首筋を切り気絶もしくわ失血死させるために使うものだ、しかしシャルロットの行ったものは≪手刀≫などという生易しいものではなく≪手斬≫と呼ばれる手刀の上位互換であり学園を卒業した者、つまり新人探究者か新米騎士などがが使える技のはずなのだ。到底7歳の子供の使えるような魔技ではない。
手刀以上の複雑な魔力操作が必要になる。それを為せたのはおそらく彼自身、シャルロット自身の技量、生まれ持ったセンスによるものだろう。
そして極めつけの≪魔力波≫、ケリーは学園に在学していたころ一年間かけて習得した。もともと学級でも下から数えた方が早い成績だったのだが、それでもシャルロットの習得速度は異常だった。
「凄いわー! シャル! さすが私の子ね!」
と言ってシャルを抱きしめる。
シャルの力は今はまだ自分にも及ばない子供だ。
しかし、第二の破片を入手し、さらなる力を得れば、シャルロットには常に危険が伴うことになる。
だからこれを伝えるのは母親の責務だろう。
そう意を決し、シャルロットの肩を掴む。
「シャルよく聞いて 自分でも気づいていると思うけど正直あなたの習得速度は早すぎる それも異常なほどに… 将来探究者になりたいならよく聞きなさい」
いつもの柔らかい表情から一変、母さん表情が真剣なものになる。
シャルロットは若干の戸惑いを見せたが、母の真剣さを察し首を縦に振る。
「う、うん」
僕が返事をすると母さんは真剣な表情のまま話を続けた。
「探究者で一番死亡率が高いのは何歳か知ってる?」
「…わかんない」
「ちょうど成人の議を迎える14歳よなの」
「え…?なんで二つ目の叡智の破片をもらったのに?」
「ええ そうよ 人はね力を手に入れたときが一番弱いのよ むしろ人として強いのは一番弱いとき 弱いものは生に必死にしがみついて生きようとする それもその時使える最大の力をもってね けど強いもの いえ 力のあるものは自分の力を過信する 『俺は大丈夫だ、もう強い』ってね だから油断もするし隙もできる だからシャルロット あなたは自分の力を過信したらダメ これから凄く強い敵と出会って戦うことになるかもしれない 少しの油断も許されない生死を分ける戦い そんな時生き残れるのは自分は弱いと信じているものだけよ」
そして最後に母さんは僕の髪を撫でこういった。
「シャルロット あなたはきっと ――――神命を担う者【代行者】になる だから忘れないでお母さんの言葉を」
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【代行者】を授かった者のほとんどは英雄と言われた。
神命とは成人の儀の際に極稀に生まれる選ばれし者の証
授かった者は神命に従い生きていかなくてはならない。
それは授かった者の最高の【名誉】
それは授かった者の【宿命】
しかし人はまだ知らない。
それは授かった者の【贖罪】
そして
授けた者の【制裁】だという事をーー。