表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神命を担う者 ~紅瞳の探究者~  作者: 甘路
第1章 叡智の破片
12/12

修行の始まり

学生の皆様試験お疲れ様です。

ラディウスさんとの訓練が始まって一か月。その内容は熾烈を極めている。

まず初めに始めたのが60キロもの距離を魔力強化なしに走りきること。

最初は5キロ地点で息をすることさえ難しくなってしまいバテていたがその都度、回復力を上げるポーションを飲まされ数分後には走り始める。というのを繰り返していた。


ラディウスさん曰く 体が出来ていないうちに剣を振っても余計な負担がかかり怪我をしたり変な癖がついてしまうそうだ。


「ばててんじゃねえぞ!筋トレの量増やすからな」


その後も力尽きてはポーションで回復させられ走り続けた。

走り始めは特に不調はなかったが、走り続けていると足が充血し始め筋肉がずれ始める。

激痛に耐えれなくなれば少しだけ薬で回復させられまた走る。

訓練が終わるとフルポーションを使い体の不調を完治させるそれの連続だった


薬は体を治せても心は治せない。僕の精神状態はもうボロボロだった。

さらに午後は筋肉を増やすため体に最大の負荷をかけ続ける。

体が壊れれば薬で治しまた続ける。


「ぐぁっ…いたい いたい いたい いたい」


僕は壊れ続ける筋肉の叫びに耐え続けた。


「なんだ?てめえもうやめんのか?母親んとこ帰ってもいいんだぞ?」


するとラディウスさんは僕を挑発する。

けど乗るわけにはいかない、もうやめたい。もうやめてしまってどこかへ逃げてしまいたい。


――けど、それはだめだ。僕は弱い ここで諦めたら弱いままだ


「っ…やめれるわけないだろッ! もうあんな思いはしたくないんだっ!」


人は傲慢で、回避することの出来なかった事も、自分の責任にする。罪など無いのに己の生を贖罪として捧げようとする。シャルロットが剣の技術を欲したのもその傲慢さが生み出した物だった。母親が傷ついた事を自分の罪と為しシャルロットの心を蝕む。母さんが傷ついたのは己の弱さ故だと。これは自分の罪だと。


その後悔は決して埋まることの無い穴として心に残る。そして人は己の一生をその穴を埋めるために捧げる。シャルロットの行動もそれと同じだった。強さを得る事で過去の自分を否定する。今の行動もそのためだけだった。しかしシャルロットは知らなかった、心の穴を埋めるものに代わりなど無い事に。


しかしシャルロットが修行を始めた理由はそれだけではなかった。

シャルロットは怖かったのだ。自分が母親に憎まれていないか。左手を失った母親は自分を恨んでいないかと。それはシャルロットの幼い心が作り出した偶像に過ぎない。それでもシャルロットはそう信じてしまった。母親は今までのように自分を愛してはいないと。


そしてその考えは日を重ねると行動に現われ始めた。

何かと理由を付けては外出し、家にいるときは図書室に籠り、なるべく母親に会わないようにする。

母親が口を開けば、出ていけと言われるのではないかと不安になり、心臓の鼓動が早くなる。


当然そんな生活が続けば精神は摩耗する。7歳の子供が到底耐えられるものではなかった。

そしてその結果シャルロットの選んだのは修行という名の家出だった。

日に三回は食事を作るために帰るがそれだけなら耐えれた。


それ故、シャルロットは今の修行に耐えることが出来た。

常人では耐えることのできない修行もシャルロットにとっては唯一の救いだった。

強さを求め続ける事で自分を騙し続けた。


「そうか なら続けろ 強くなりたいならな」


一言だけそう言い修行を続行させる。

しかしラディウスにも思うことはあった。代行者にふさわしい器にすることも重要なことかもしれないが、こんな小さい頃から鍛える必要があるのだろうか…と。本人が求めている以上否定する気はない。ただこの少年は何を背負っているのか、少しだけ気がかりであった。


「壊れないといいんだがな…」


その時だった、シャルロットは筋力を鍛える修行を終えた。

「ハア…ハア… やっと…終わり ました」


そこまで言うと、シャルロットは突如訪れた睡魔に自分の体を支えることが出来なくなり地に崩れ落ちる。そしてそのまま意識を手放した。


「やっとか、けどまあよく一か月も耐えたな…」


シャルロットの身に起きたのは成長睡眠。成長睡眠は一定以上の経験を得たものに訪れる進化の兆候。

一か月の訓練がもたらした成果であった。ラディウスの修行は本来、成長睡眠までの幾年もかかる修行を一か月で終わらせるという、異常なもので実際に耐え抜いたのは騎士団員のなかでも優秀なものだけだった。


7歳にして騎士団員と同レベルの修行を耐え抜く。

それはシャルロットが異常であることを明確にしていた。


「ったく… こんなところで寝やがって…」


文句を言いながらもラディウスはシャルロットを抱え屋敷へと向かっていった。


ラディウスは自室のベッドにシャルロットを寝かせる。

ふう…と息を吐き、第一段階が無事終わった事に安堵する。しかしこれからの事を考え少しだけ憂鬱になる。なぜならこれまでの修行はまだ入り口に過ぎないから。

肉体的な苦痛はこの一か月が最も大きいもののこれからは死と隣り合わせとなる。


「死ぬなよ…おめえ」


ベットに寝かせたシャルロットに向かってラディウスは呟く。

しかしシャルロットは知る由もなかった。

――これまでの修行が序章に過ぎないということを。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ