10年前の君へ
あの日、僕が見た景色は美しかった。
いつも見る景色よりも高くて、
お父さんに抱き上げられた時と同じ景色だった。
周りは真っ暗で、誰もいない。
暗闇の中にはいくつもの星が輝いていた。
自分が立っているのかも分からず、奇妙な浮遊感だけが残る。
けれど、そんなことは最早どうでも良い事だった。
目前に紅色に染まった服を着た女性がいたから。
その女性は形容しようがないほど美しく
燃えるような深紅の髪は宝石のような輝きがあった。
ここがどこで
女性が何者なのか、聞きたい事は沢山ある。
けれど口が開かず、音を聞くことも許されない。
そんな静寂の中でその女性は何かを僕に伝えようとしていた。
涙を流しながら。
――――――――――――――――――――――――
僕は必死にその女性の言おうとしている事を推測しようとしたが、その瞬間、目が覚めてしまった。
目が覚めた頃には既に奇妙な浮遊感はなくなっていた。
「夢だったのかなぁ」
夢にしては現実味がありすぎたけど、偶然だろう。
あの人形のような女性も、本で読んだお姫様の絵が印象的だったからかもしれない。
「シャル〜,起きなさい!」
そんな事を考えていると母さんの声がした。
「もう起きてるよ!一人で起きれるんだから起こさなくて良いって言ったでしょ!」
「はいはい、シャルはもう7歳ですものね…」
こうやっていつも母さんは僕を子供扱いする…けれど今日からは違う…
そう、僕は今日7回目の誕生日を迎えたのだ!
「ふふーん、どうだ母さん!今日で僕だって大人に近づいたんだ!もう子供扱いしないでよね!」
「それはダメよ。シャルはいつまでも私の可愛い息子なんだから!」
「成人の儀が終わっても?」
「そうよ?」
「結婚しても?」
「もちろん!」
「おじさんになっても?!」
「あたりまえじゃない!」
うん…それは流石にやめて欲しい…
「もう!それじゃあ僕がみんなに馬鹿にされちゃうでしょ!せめて外では7歳として扱ってよ!」
そう7歳は成人の半分の年齢。この国では【半齢の儀】と呼ばれる祝い事をする習わしがある。だから、7歳になるとお兄さん扱いされるのだ!
…にもかかわらず、僕の母さんときたらこの有様だ。
少しくらい子供の気持ちもわかってほしいよ…
「そうね、じゃあおねしょしなくなったら7歳として扱ってあげるわよ?」
「おねしょなんてしてないし…」
「へぇ〜,じゃあなんでこの前シーツが濡れてたのかなあ?」
「ぐぬぬ、あれは果実水をこぼしただけだし!」
「果実水は黄色じゃないよね?」
「ウッ…それは…」
「ほら,まだまだシャルはお母さんの可愛い息子よ」
優しく微笑んで母さんは僕にそう言った。
母さんはいつもこうやって笑って全部ひっくるめようとする…そう悔しがっている僕に母さんは
「さあさあ、朝食の時間よ、早く食べないと冷めちゃうわよ」
と,微笑みながら言った。
「わかったよ…」
まったく…いつもこうやって話を逸らすんだから
――――――――――――――――――――――――
「「ごちそうさまでした!」」
僕と母さんは夕食を食べ終えると食器を洗い始める。
いつも僕が食器洗いをして母さんが食器を拭く。
ふと僕は今朝見た夢の事を思い出す。
「そういえば母さん、今日変な夢を見たんだ」
「どんな夢?」
「なんかね、真っ暗なところで真っ赤な髪の毛の女の人が話しかけてくるの… 凄い綺麗な女の人だった!」
「あらあら,シャルも女の子に興味があるのね!」
「もう!そういう話じゃないってば!
凄い現実感があって、目線も高くて、夢じゃないみたいだった!」
「そうねー…もしかしたら叡智の破片に関わっているかもしれないわね」
「どういうこと?」
「叡智の破片を開現していない状態だと,それに関する夢を見る事もあるみたい。浮遊感みたいなのがあるって人もいるらしいわよ。」
≪叡智の破片≫というのは【半齢の儀】と【成人の儀】の時にわかる自分の能力の事だ。能力は7歳の半齢の儀と14歳の成人の儀で合計二つ貰うことができる。身体変化などの能力だと儀式よりも前にわかることが多いのだが大半は儀式まで能力がわからなかったりする。
「そっかあ、早く叡智の破片ををしりたいなぁ」
「ふふふ、お母さんも楽しみよ」
そんな話をしているといつの間にか食器を洗い終えていた。
ーーコン,コン
その時だった、ドアをノックする音が響く。
「こんな朝早くに誰だろう」
「教会の方かもしれないわ、今開けますね!」
母さんはぱたぱたとドアへ駆けていき開ける。
するとそこには真っ黒な髪のおじさんが立っていた。
「やあ、ケール!久しぶりだね!」
「先生!久しぶりです!私の出産祝いにあったきりでしたよね!」
どうやら知り合いみたいだ。それにしてもかなり年が離れて見える。
「母さんこの人は?」
「シャルこの人はね、私の学園の先生だったのよ。
それでね、シャルが生まれる時にも立ち会ってくれたのよ シャル 挨拶は?」
急な訪問に驚きつつも僕は自己紹介をする。
「う、うん シャルロット・ワイト です!
今日で7歳になりました!」
「君がシャルロット君か!大きくなったなあ!
私はアゴーラ・スミスだよ。気軽にゴーラって呼んでよ よろしくね
ベージュ色の髪はお母さん譲りだな!目は緑…
お父さんと同じか…」
「お父さんをしってるの?」
お父さんは僕がもっと小さいころに死んじゃったらしい。
母さんはあまり話そうとはしないから詳しいことは知らない。
けどゴーラさんは知っているみたいだ。
「ま、まあね」
僕は好奇心に駆られゴーラさんに駆け寄る。
「教えてください!」
「ちょっとシャル! ごめんないね先生、とりあえず中へ入ってください」
「あ、ああ」
母さんはゴーラさんを部屋へと案内する。
「それで、今日はどうなさったんですか?」
「ああ、そうだった 知っていると思うけど協会からシャルロット君の半齢の儀を受け持つよう言われてね。こうやって尋ねたんだ。半齢の儀は今日の夜からだろう?その準備も兼ねて君に挨拶しておこうと思ったんだ」
「そうだったんですね わざわざありがとうございます 」
「いやいや、むしろこんな可愛い子を見れてこっちも挨拶した甲斐があったよ」
そう言ってこちらを見るゴーラさんに寒気がした。
この流れは…
「そうでしょ!私の自慢の息子ですもの!女の子みたいで可愛いですよね!」
「ああ!この少女のような顔つき!クリクリした目!
我が教え子の息子がこんなに可愛く育つなんてッ!」
まさかと思ったが。
母さんと同類だった…
「もう母さん!やめてっててば!ゴーラさんも!」
「ふふふ、照れているところも可愛いわよ」
照れてないし…
「おっとすまんすまん ところでお父さんの話だったかな?」
「はい!」
「そうだなあ、今は時間がないから半齢の儀の時でもいいかな?」
「わかりました…」
今すぐ聞きたかったけど、時間がないなら仕方がない。僕だって大人なんだ!少しくらい待てるさ!
「じゃあ私はそろそろ行くよ ケール、シャルロット君 半齢の儀で会おう!」
そう言ってゴーラさんは家を後にした。
「わかりました先生 半齢の儀 よろしくお願いします。」
やっと僕も叡智の破片が授けられる。
そう思うと、胸が高鳴る。
能力は千差万別で色々な種類があるけれどほとんどの人が能力によって職業を決める。母さんに聞いた話だと戦に特化した能力もあるみたいだ。
やっぱり僕は戦闘系のスキルに憧れるなあ
世界観の説明などは今後のストーリーで判明していきます。よろしくお願いします。