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4.

「くわぁ……っふ」

 

 自分でも驚くほどに深い眠りについていた私は、遮るもののない窓からギラギラと入り込む朝日を浴びて大きく背伸びをする。

 

 相変わらず部屋一面を覆うピンク色は昨晩よりも光を浴びたせいか、一層目に痛い。

 

 昨晩、ミラーにせめてカーテンを変えてくれと言ったが、その他に壁紙と布団もどうにかしたいものだ。

 

 寝起きに一番に目につく2つの色さえ変われば他は我慢できるはずだ。いや、してみせる。だからこそこの3点は何としても変えたいものである。

 


 元々侍女にとやって来たため、さすがに壁紙の取り替えに職人を雇うだけのお金は持っていないが、当分の生活費くらいは持ってきているのだ。

 予定は全くしていなかったとはいえ、カーテンに布団、それにペンキくらいは買えるはずだ。

 

 ペンキなんて塗ったことはないけれど、美術と魔術の合同課題で大きなキャンパスに油絵の具で学園を描いたことはあるのだ。

 

 今回も魔法でどうにか出来るだろう。

 

 そもそもこの塔の中に人を招き入れていいものかもわからないのだ。お金があったとしても壁紙はペンキを買ってきて自分の魔法でどうにかするのが一番だろう。

 

 ただ1つ心配事があるとすれば昔から魔法はあまり上手くないことである。

 課題も提出期限に間に合いこそしたものの、人の倍の時間はかかった。


 今回も時間はかかるだろうし、失敗をしてしまうかもしれない。

 だがもし失敗したとしてもどうせ一年は自分の部屋になるのだ。

 自分で塗った下手な塗装だろうが何だろうが、1年間毎日ピンク色の壁紙を眺めて寝起きするよりもずっとマシである。

 

 それに1年経って、この塔を出て行くときには家から模様替えの費用を捻出してもらえばいい。

 メイガス王子から婚約破棄されたことで当家には謝罪の意味をふんだんに含んだお金がたんまりと入ったはずだ。それくらいお父様も出してくれることだろう。

 

 

 それにしてもペンキってどこで買うのかしら?

 ミラーならば知っているのだろうかと、自室となった部屋を後にして昨晩ミラーと顔を合わせた部屋へと向かう。

 するとトーストの焼けた香りとバターのいい香りがどこからとやってきては私の鼻をくすぐる。

 ググゥ〜とケモノの鳴き声のような音を上げたお腹をさすり、目の前のドアを開けるとそこにはピンクのエプロン姿のミラーがフライ返しを手にして立っていた。

 

「おはよう、リュコス。よく眠れたか?」

「ええ……」

「もう少しでハムエッグも出来るから先座っていてくれ」

「ありが、とう」

 

 これは何から突っ込むべきなのだろうか?

 脳内の処理が追いつかないまま、とりあえず家主の好意に甘えて椅子に腰を下ろすことにする。

 そしてすることも特にないからと、ミラーの背中を眺めることにする。

 

 騎士かと思うほどいい体格を持つ彼が、ピンクのエプロン。

 それも背中の紐はピシッと綺麗なリボンの形に結ばれており、彼自身、あのエプロンは着慣れた様子である。

 それにあの部屋に合わせて、私のために用意したピンク色の物シリーズの一品にしては大きすぎる。なにせミラーの身体にピッタリなのだ。

 

 つまりあのエプロンは正真正銘ミラーの私物である。

 

 ……ってことはやっぱりあのピンクの部屋ってやっぱりミラーの趣味なんじゃないかしら?

 

  だとしてもピンク責めの部屋はいただけないが。


「出来たぞ」

 手際よくフライパンからハムエッグをお皿に滑り込ませたミラーは2人分のお皿を私と彼の席に置くと自身も腰を下ろす。

 

「朝にしては随分と量が多いのね」

 

 ハムエッグで最後なのだろう朝食は2人分だけしかないはずなのに机一面を占領してしまっている。


 そもそもパンだけでもトーストした食パンの他に、バスケットの中にはクロワッサンにバターロール、バケットと豊富な種類が用意されている。

 それにまだ少し肌寒いことを考慮してか、身体があったまりそうなコーンスープまで用意してある。

 先ほどミラーが立っていたキッチンに見えるお鍋にはおそらくこれと同じものがまだ残っているのだろう。

 

 それに私達の真ん中にはカットされたフルーツと、グラスボウルに入ったヨーグルトまで置かれている。

 

 

 我が国、リンデル国もそこそこ豊かな国ではある。農業も畜産もそれに鉱業も盛んなのだ。

 

 だがいくら王族とはいえ、朝食からこんなに机に食事が並ぶことは滅多にない。

 それこそ来客が来た際に見栄を張る時くらいなものだろうか。


 食事というのはその国や家の財源を見るための基準の1つでもある。

 もちろん身につけている服の生地やアクセサリーなども対象となるが、案外食事というのは馬鹿にならない。

 

 夜会やお茶会が開かれた際には何が並んでいるか、欠かさずチェックするようにしていた。

 別に食い意地が張っているわけでも、どこの家が抱えている調理人の腕がいいのか知るわけではない。

 使われている食品の種類や質が良いということはそれを入手するだけの伝手と金を持っていることになるのだ。

 

 ドレスやアクセサリーは窮困していようがどうとでも都合を付けることは可能だ。

 だが食品だけは違う。

 こればかりは急に都合することは不可能なのだから。

 

 

 つまりはミラーひいてはギルハザード王国はそれだけの財源を有しているということだ。

 とはいえ、私の扱いは王子?の奥さん(仮)なわけだから、優遇されているだけの可能性も捨てきることはできないが。


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