地球歴2XX8年7月16日
地球歴2XX8年7月16日
今日も体調に変化はなかった。健康そのものだ。
この星の空気を吸い、夜と昼に従い、この地に育ったものを食う。
この星は美しい。ただただ美しい。すべてが破綻した、狂った世界だ。
母船の暫定政府は、本格的に、この星の繕いを俺たちに命じてきた。テラフォーミングを。
俺はこの頃、よく夢を見る。美しかった地球の姿を。
一瞬のうちに姿を変えてしまった、俺たちが学校で習った形の陸地を海の上にたたえていた、あの頃の地球だ。
帰りたいよ、本当に。帰れるものならば、帰りたい。
俺たちクルーがたとえこの星の開発を拒否しても、暫定政府は次の調査隊を送ってくるだろう。
何度でも、繰り返し。二度と人類の喪失感と飢餓感は満たされることはないから。
だから、俺はここに残るよ。命令に従う。
もしできることならば、俺はこの星のすべての謎を解明したい。
生命の神秘を。
そして、帰りたい。地球へ。もう一度、夢に見るあの地球へ。
俺はそのためにここにいる。宇宙が始まったように。猿が立ったように。俺は帰るために、ここにいる。
また俺たちは間違うのかもしれない。あの黄金の果実を暴走させ、地球を狂乱の地に変えてしまったように。
それでも、進まずにはいられない。望みがなければ生きていけない。希望を失ってしまった、俺たちは。
おまえたちの命を踏みしだいてしまったように、幾多の命を踏みしだいていくとわかっているのに。
人は、そういう生き物なのだろう。生まれながら深い業を背負って生きていく。
天よ、と蒼穹を見上げて祈った、あの天の中に、俺は今いる。光さえ呑み込む暗黒の世界に。
自ら光を掲げなければ、弾け飛んでごみ屑になって、何もない空間を漂うだけのものになり果ててしまうここで、俺は、命が許す限り、進み続けるよ。
俺は俺らしく生き抜く。
それで許してくれ。いや、眠っているおまえたちに、それは望むべきものじゃないな。
俺がおまえたちに望んで許されるのは、たぶん、ただ一つだけだ。
どうか、眠るおまえたちの上に、良い夢のあらんことを。
神の存在など、とうに信じられなくなっているけれど。本当はいつだって願わずにいられないんだ。
どうか、どうか、あの地に眠るすべての魂に安らぎを。