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Dyst0pia  作者: まのひと
1/54

#1

思えばここから、間違っていたのかもしれない。




やり直せるなら。いや、やり直させよう。




きっと、償える。






××××






「……朝か。」




書類の散乱した机の上で突っ伏しながら、カーテンの隙間から漏れる日光を浴びる。




「昨日は何をしてたんだっけな……頭がまだ回ってないな、こりゃ。」




睡魔に負ける前に自分がどの作業を行っていたのか整理しつつ、時計に目をやる。




針は七時を少し過ぎたところだった。




まだ所員の姿も少なく、自分も研究所に泊まり込みをしていなければ今頃まだ家にいたであろう。




「……八時くらいまでもう一眠りするか。」




分厚い本を枕に、机に再度身体を預ける。




しかし眠りには落ちなかった。背中に軽い衝撃を感じる。手刀だろうか。




「何をやってる、だらしがないぞ。起きろ。……ああ、もう。こんなに散らかしてしまって。」




毎日聞いているであろう馴染み深い声が投げかけられ、顔を上げる。そこには銀の長い髪を後ろでまとめたスレンダーな少女がいた。




燃えるような赤い瞳に俺を映しながら、呆れたようにため息を一つつくと、てきぱきと書類をクリアファイルに引越しさせていく。




「ああ、東雲か……ごめんな、途中で寝てしまったみたいでこの有様だ。」




彼女は手元の書類に目を落としながらまたか、と息を吐いた。




「タイムリープ、か。どうだ、実現の目処は立ったか?」




「人類が針の先よりも微小になれれば現実味も増すんだけどな。」




皮肉を交えて答える。この研究所に来てから、タイムリープなどは夢の産物だのお伽話だの散々言われていたが、東雲だけは良き理解者だ。




彼女はどんなに素っ頓狂な理論を並べられても、真っ直ぐに向き合ってくれるのだ。もっとも、彼女の頭がずば抜けて上質であることも関係するだろうが。




「よし、それなりに片付いたな。こまめに掃除はするのだぞ。」




山が鎮座していた机の上はいつの間にか均され平地に戻っていた。




と、そこで東雲の腹が小さく音を立てる。




「朝飯、食ってないのか?」




東雲は顔を仄かに染めて、ぶっきらぼうに答える。




「……寝坊、してしまってな。」




仕方が無いので、昨日の夜食にと買っておいたチョココロネをひょいと手渡す。




「いいのか?」




「お前、甘い物好きだしな。」




東雲が異常なくらいまでの甘党であることは知っている。コーヒーに砂糖を入れさせると何故か水飴になるくらいには、甘いものに目がない。




彼女は一瞬目を輝かせると、慌てて表情を元に戻して「感謝する、お前も無理はするなよ。」とそそくさと出て行った。




後ろ姿が見えなくなったのを確かめて、大きな欠伸を一つした。





××××





正午を知らせる時計の音が響けば、にわかに研究所も騒がしくなる。




三度の飯より研究が好きだという物好きでなければ、昼食をとるなり気分転換に散歩に出るなり自由にできる時間だ。




昼食を買いに、街角のタバコ屋のようなこぢんまりとした店に足を進める。




ピーク時のためか、店の前は人でごった返していた。しかし店員の若い女性は涼しげな顔でそれらを捌く。




するとその人波の中から見知った顔が飛び出してきた。




「あら、水無月さん。ごきげんよう。」




「げ」




思わず失礼な声が出る。艶やかな黒髪を腰まで伸ばした大和撫子は凛とした顔に不満を滲ませた。




「人の顔を見てそんな声を出すとは失礼ですわね。けれど水無月さんなら許してあげます。」




頬を染め、くねくねと身体を揺らしながら少女は熱っぽい視線を向けてくる。




絡まれると時間をかなりロスするため出来れば会いたくない相手だった。




「夜霧、大学はどうした。」




すると彼女は微笑み、




「今日はお休みですのよ。水無月さんに会いたくて早起きして街を徘徊しておりましたわ。」




とのたまった。やはりあまり関わりたくない人間だ。




「あら、みーくん。昼ごはん買いに来たの〜?」




気の抜けた声に振り返ると、弁当屋の前の人も落ち着き、店員が手を振ってきた。




カールのかかった茶髪にくりくりと大きい目をした彼女は、些か胸部の主張が激しい。




「ほのかさん、いつもご苦労様です。」




「あらあら、みーくん。そんなに畏まらなくていいよ〜?あ、唐揚げ弁当?みーくん好きだもんね〜」




すっかり常連になってしまい、変なあだ名で呼ばれるようになってしまった。お陰で人の多い時間は避けたいのだ。




「はい、おまちどう〜。やぎりんとお揃いのお弁当だし、今から一緒にお昼ご飯〜?デート〜?」




ほのかさんは微笑み、軽くからかってくる。




「勿論ですわ。」




「違います。」




二人共異なる内容を即答したのが面白かったらしく、ほのかさんはくすくすと笑った。




「じゃあやぎりんはお勉強、みーくんは研究かあ……二人共、無理せずのーんびりやるんだよ〜?」




別れ際の彼女の励ましは、ほわほわとしたものであった。



初めまして。まのひとと申します。

仰々しいあらすじとはなりましたが、中身としては空想科学恋愛譚に近い形になると思っております。

まだまだ未熟な点はありますが、どうぞお楽しみくださると幸いです。

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