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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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第76話 月下、新しき誓い



 


「い、いきなりすぎるよ……」


 約一分に及ぶ口づけを終えた後、アリサは蕩けた表情でリアムを睨んだ。だが、それはリアムを更に興奮させるためのものでしかなかい。

 と言うより、途中でリアムが止めようとしても、アリサから『もっと……』と誘ってきたのだから説得力がない。


「そうか?俺からしたら、これ以上のタイミングはなかったと思うけど」


 リアムはなんとか理性を保ちながら答えた。よくよく考えてみれば、ここはまだ帝国軍寮。いわば敵地だ。イチャイチャするような場所ではない。自分にそう言い聞かせる。


「嫌だった?」


「え、いや……良かったけど」


 アリサの醸し出す色気に、リアムはついに目を逸らす。負けそうだった。とりあえず、話を戻すことにする。


「それで、さっきの続きなんだけどさ」


 アリサは未だに顔を赤くしながらも、真剣に頷いた。


「俺は、結婚するなら順番なんてつけたくないと思ってる。俺が最初に好きになったのはアリサさんだけど、ミサキとルナも同じぐらい大切なんだ」


「うん、それがいいと思う。リアムらしいよ」


 アリサは迷うことなく答えた。まるで、リアムのことならばなんでも受け入れられるとでも言うかのように。


「……そっか、ありがとう。じゃあ行こっか」


「え?どこに?」


「改めて伝えたいことがあるから、それに相応しい場所かな」


「……?それがどこかは秘密?」


「そうだな。あ、あと寄り道もしたいんだけど大丈夫?」


「うん、いいよ」


 アリサはそう答えると部屋の片付けを始めた。部屋の中は比較的整理されており、あまり時間はかからなそうだ。


「アリサさん。荷物は全部この中に入れなよ」


 リアムはそう言って魔石を差し出した。スイからもらった、あの魔石だ。アリサもその存在を知っていたため、礼を言うと手際よく荷物を収納していく。

 それにしても、物凄い勢いだ。よほどここにいたくないのだろう。先程マリーから聞いた話を思い出し、リアムは苦笑した。


「準備は終わったよ!」


「思い残すことは?」


「大丈夫!」


「家族に連絡とかは?」


「家族とは……あまり仲良くないから……。そのうち、伝えに行くことにする」


 アリサの家庭にも色々とあるみたいだ。しかし、リアムからすれば家族は大切にしてほしい。自分には残されていないものだからこそ、心からそう思う。リアムはまた、後日ちゃんと話をしようと決めた。


「分かった。じゃあ行くから……っと」


 リアムはそう言ってアリサを優しく抱える。お姫様抱っこだ。


「ひゃっ!ちょ、ちょっと待ってリアム!私も空歩使えるんだから抱えなくても大丈夫だよ!」


「え?いや、空歩は使わないし」


「へ?」


 次の瞬間、アリサの視界は一転した。




 〜〜〜〜〜




 リアムの目的地までは2回の転移で到着した。転移に必要な魔力は少しずつ減少し、逆に移動距離は伸びている。空間操作にも慣れてきたようだ。


「い、今のってもしかして」


「そ、空間操作による転移だ」


 アリサにも空間操作については説明している。実際、アリサはそれだけで理解した。しかし、理解はできてもすぐに慣れるものではない。アリサはしばらく目を白黒させた後、思い出したかのように辺りを見渡した。


「それで、ここって……?」


「俺の故郷だよ」


 リアムが寄り道と称して来たのは、家族の墓がある例の場所だった。やはり、ここの景気は何も変わらない。リアムは墓石に近付く。


「アリサさん。こっから先は見ない方がいいと思う。多分、慣れてないから」


「わ、分かった」


 リアムは先に忠告すると、アモンから取り返した家族の首を魔石から取り出した。


「……安らかに眠ってください」


 リアムはそう呟くと、その3つの首をケースから取り出して焼いた。そして骨だけになったそれらを、綺麗な布で包んで新しい壺に入れると、元からあった骨壺の隣に埋める。正しい埋葬の仕方は分からないが、リアムなりのやり方で弔った。


 以前と比べると、随分と穏やかな気持ちだった。復讐を遂げたことも関係しているのだろうが、それ以上にリアムが成長したからだろう。


「………」


 墓石の前で目を瞑り手を合わせる。気付けばアリサがリアムの隣に寄り添っていた。恐らく全て見ていたのだろう。だが、彼女は何も言わない。リアムはその心遣いをありがたく感じた。


 リアムの頰を、静かに涙が伝った。




 〜〜〜〜〜




「じゃあまた転移するか」


 次にリアムが転移した先は、グラム大陸とヴィリレタル大陸のちょうど真ん中辺りに位置する海の上だった。冬なだけあって、風が冷たい。が、リアムの魔法によって防寒対策はばっちりだ。


「アリサさん、ちょっと立ってもらっていい?」


 リアムはアリサを空歩で宙に立たせる。下は一面海、空には雲一つ無く、大きな月が2人を白銀色に照らしていた。そんな幻想的な場所で、リアムとアリサは互いに向き合う。


「さて、アリサさん。良かったら一緒に踊らないか?」


「……?うん、いいよ!」


 アリサにはリアムの意図がまだ分かっていない。ただ、リアムと共に踊るのはすごく素敵だと感じたからすぐに頷いた。


「では」


 リアムはその場で宙に跪き、アリサの手を優しく取る。2人は目を合わせ、どこか照れながらも微笑み合った。


 ダンスが始まった。音楽はなく、リズムもバラバラ。ステップもデタラメで、お世辞でも上手とは言えないようなダンス。だが、その不細工なダンスを2人は心から楽しみ、笑顔を浮かべている。その姿は月夜によく映え、どんなダンスよりも美しくかった。


 ダンスが終わった後、2人は空で抱き合っていた。リアムがアリサを見下ろし、アリサがリアムを見上げる形だ。


「……ねえ、なんで踊ったりなんかしたの?」


「ん〜単にアリサさんと踊りたいな〜って思ったからかな」


 そう言ってリアムはアリサを離すと、またもアリサの前に跪いた。


「また踊るの?」


 くすくすと笑うアリサに、リアムは顔を横に振った。真剣な表情だ。そして、どこか緊張もしている。


「さっきまでのはおまけみたいなものさ。ここからが本命」


 そう言って、リアムはどこからともなく銀色に輝く指輪を取り出した。


「アリサさん。……いや、アリサ。俺はこれから君と一緒に生きたい。楽しいことも、辛いことも、嬉しいことも、悲しいことも。どんなことも、君と一緒に感じたい。アリサの全てが欲しい。これから先、どんなことがあっても君を幸せにしてみせる。君を守ってみせる。だから、俺と結婚して下さい」


 リアムはずっとこれを言いたかった。改めて自分の気持ちを伝えたかった。流れだけで結婚するのも悪くはないが、人生で一番と言っていいぐらい大切な瞬間だ。だから、きちんと言葉にしたかった。


「……うっ、ひぐっ」


 アリサは泣いていた。もちろん、不快だからではない。嬉しいからだ。嬉しくてたまらないからだ。ずっと待っていた人から、こうやってプロポーズされたのだから。


 アリサはしばらく涙を流したあと、いつも通り明るい笑顔を浮かべる。月光に照らされたその笑顔は、今までのどんな笑顔よりも輝いており、リアムはつい見惚れてしまった。


「はい!私の全部をもらって下さい!」


 リアムがアリサの指に指輪を嵌めると、2人はまた、長い口づけを交わした。


 そしてリアムは誓った。アリサを、そしてミサキとルナを、必ず守り抜き幸せにすると。もしもそれを邪魔するものがあれば、例えそれがなんであろうとぶち壊してみせると。


 何か(理由)に縋らなければ生きていけない少年リアムは、復讐に代わる新しい誓いを胸に刻んだ。


 こうしてこの日、リアム・イガラシとアリサ・フリエルは結ばれた。その瞬間を見ていたのは、宵闇に浮かぶ大きな銀色の月だけだった。






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