第8話 決闘
次の日、教室に行くとすぐに質問攻めに会った。
「おい、リアム!なんでお前あのアリサ先輩と知り合いなんだよ!?」
ルークが焦ったように聞いてくる。近付いて来ない生徒も聞き耳を立てているようで教室が静かだ。
「なんでって、図書館に行った時にたまたま会って知り合っただけだぞ?」
リアムはなんでも無いように答える。それよりも、静かすぎてとにかく居心地が悪い。
「くあ〜!やっぱイケメンは違うってことか!あのな、リアム。お前は知らないようだから教えてやるが、アリサ先輩はこの学園のアイドルなんだよ!!」
「アイドル?」
「そう!アイドルだ!お前はかつてあんな美しい人を見たことがあるか!?無いだろう!?この学園にいる男は皆、一度はアリサ先輩に憧れるんだよ……!」
ルークが急に力説を始める。それを聞いている男子生徒も皆頷いている。リアムはとりあえずスイという別次元の美人を知っているのだが、今言うと殺されそうな気がしたので黙っておいた。
「そうそう。それに男子だけじゃなくて女子も憧れているんだよ?」
ミラが言うと、今度はクラス中の女子生徒も頷く。
「それなのに、なんだ!昨日のあれは!数日前に来たばかりってのにあんなに仲良くなりやがって!羨ましいぞこの野郎!!」
「ちょっと落ち着けって!別に羨ましい関係じゃないから!」
「それを決めるのはこっち側だ馬鹿野郎!」
ルークが更に興奮する。収拾がつかなくなったのでスイ直伝のチョップを落とす。
「いでぇっ!?」
「だから落ち着けって。結局俺はどうしたらいいんだ?」
「紹介してほしい」
「はい?」
「だから俺達を紹介して欲しいんだよ。別に付き合いたいとかじゃなくて仲良くなりたいだけなんだよ」
「そんなことか。いいぞ、別に」
ルークの要求は思ったより普通でひとまず安心した。そのルークの言葉に便乗してクラスメイト達が名乗りあげる。面倒くさいし教室でまとめて紹介しようかな、と思っていると後ろからクレアが来た。
「ちょっとリアム君。こんなところで突っ立ってないで早く席に座りなさい。授業が始まるわよ」
そこでリアムはずっと扉の前で立っていた事を思い出し、とりあえず立ちっぱなしにさせていたルークにもう1発チョップをお見舞いした。そして席へ向かおうとしたのだが、
「君が、リアム君でいいのかな?」
後ろから声をかけられた。振り返ってみると教室の入り口に1人の男が立っている。
「えっと?」
「僕の名前はルイス・バーリー。隣の2年B組所属だ」
ルイスはリアムより頭1つぶんぐらい背が高かった。緑色の髪を短く切り揃えている。貴族感が凄い。正直リアムは関わり合いたく無いと、直感的に思った。
「はぁ。それで俺になんの用?」
「君がアリサ先輩と仲良くしていると聞いたのだが、それは事実かい?」
「あ〜もしかしてお前も紹介して欲しいのか?」
「違う。アリサ先輩に近付くなと言いに来たんだ」
「………は?」
ルイスの急な言葉にリアムはすぐに反応出来なかった。
「それは、お前になんの権利があって言ってるんだ?」
「ふっ、決まっている。アリサ先輩は僕のものだ。自分の女に近づいて欲しく無いのは当たり前だろう?」
ルイスはさも当然といった顔でそう言った。確かに本当にルイスとアリサが本当にそういった関係なら一理ある。本当にそうなら。
「で、実際はどうなんだ?ルーク」
「あいつが勝手に言ってるだけだ。振り向いてすらもらえていない」
「お前よく堂々とそんな嘘つけるな」
予想通りのルークの言葉に、リアムは呆れてルイスに言った。だがルイスは気にした風と無く、
「確かに今は彼女は僕の魅力に気付いていない。だがその内僕のものになるさ。これは決定事項だからね」
と、自信満々に言った。リアムは自分の直感が正しかった事を確信する。
「そうかよ。その決定事項なんかどうでもいいけど、とりあえずお前に従う理由も無いから断るわ」
リアムは面倒くさそうにそう言うと、席に向かって歩き出す。だがルイスは納得しなかった。
「待て!どうしても僕の言う事が聞けないと言うのなら決闘をしろ!アリサ先輩を賭けて!」
(うわ〜こいつ思ったより面倒くさい。もう無視でいいや)
リアムはそう考えて、
「クレア先生。時間を取らせてしまったすみません。もう大丈夫なので授業を始めて下さい」
と、クレアに言った。だがクレアは頭を横に振る。
「リアム君。その決闘は受けなければいけないわよ」
「はい?」
「この学園では決闘を申し込まれたら、例え相手が誰であろうと、何を賭けられようと断れないの。まぁ賭ける内容にも限度はあるけど、それぐらいだったら成立するわ」
(まじかよ!なんだそのルール。……ちょっと面白いな)
「はぁ。分かりました。で、ルイスとやら。何を賭けるんだ?」
「もちろん、アリサ先輩だ!」
「女は賭けるもんじゃない。って月並みな事言っていい?」
「ふっ、見苦しいぞ。たった今クレア先生がおっしゃっただろう?お前に拒否権は無いんだよ」
「分かった分かった。で、日取りは?」
「今日の放課後、中央広場でどうだい?」
「それでいい」
「ではまた後ほど。楽しみにしているよ」
そう言うとルイスは教室を去っていった。
(あいつ遅刻じゃねえか)
そんなルイスの背中を見ながら、リアムがぼんやりとしていると、
「おい、リアム。お前本当にいいのか?」
「申し込まれた側に拒否権は無いんだろ?」
「まぁそうだけどな。勝てよ。お前が負けると紹介してもらえなくなるんだから」
そう言ってルークが背中を叩いた。リアムは溜息を吐くと、今度こそ席へ向かった。
〜〜〜〜〜
放課後、リアムは闘技場に立っていた。
「なんでだよ!?」
「言っただろう?アリサ先輩はこの学園のアイドルなんだって。アリサ先輩を賭けた決闘があると知って皆が気になってんだよ。んで、そんな大勢の生徒が集まるんだったら闘技場でいいんじゃないかって教師達が」
リアムの隣に立つルークが事情を教えてくれた。
「どーしよう。こんなに人の目があると緊張するんだけど」
リアムは今まで大勢の人と関わる事が無かったため、こういった場に慣れていない。
「まぁそこは気合いだ。気合い入れて頑張れ」
ルークは適当にそう言うと観客席へと戻ってしまった。リアムは緊張で震える膝を叩くとリングに上った。
「こんな事になってすまないね。僕もまさかここまで大ごとになるとは思わなかった」
リアムがリングに上ると、待ち受けていたルイスがそう言った。
「ほんとに悪いと思ってんならこの決闘取り消してくんない?」
「それは出来ない。僕とアリサ先輩のためにね」
ルイスは肩を竦める。
(こいつほんとに気持ち悪いな)
「改めて決闘の内容を確認する!武器は何でもあり、魔法もあり!どちらかが場外、気絶もしくは降参する事によって決着とする!負けた方は今後一切アリサ君に関わらない!両者相違ないな!?」
この決闘の審判が闘技場にいる全員に聞こえるよう、魔法で声を拡張して確認する。
「問題ないが……君は本当にその得物でいいのか?」
ルイスは怪訝そうに聞いてくる。ルイスは刃のある大剣を握っており、対してリアムが持っているのは木剣だ。
「ああ、これでいい」
リアムは迷わずそう言う。ルイスは露骨に顔を歪めた。舐められているとでも思っているのだろう。だが、それは違う。
「両者、構え!」
審判の号令でお互いに構えをとる。その時リアムの視界にアリサが入った。リアムの正面にあたる場所で、1番前の席に座り心配そうに見ている。
そんなアリサとリアムの視線が合う。その瞬間、リアムは自分の緊張が解けたのを感じた。
(俺のせいで巻き込んじゃったな……。後で謝らないと。それに空歩も教えきれてないし。その為にも負けられない)
「始めっ!!」
「はぁっ!」
審判の開始の合図と同時にルイスが突進してくる。そして両手で持った大剣を上段から振り下ろした。どうやら魔法で身体強化をかけているようだ。
(だが遅い)
リアムは瞬時に木剣を手放すと、左手の甲で振り下ろされた大剣の腹を弾く。剣の軌道を逸らされたルイスは驚いたような顔をしている。リアムはすぐにルイスの懐に潜り込むと、顎に掌底を打ち込んだ。
「ごぁっ!?」
ルイスは顎を打ち上げられて仰向けに倒れこんだ。
闘技場に沈黙が流れる。
「審判」
「しょっ……勝者!リアム!」
呆然としていた審判にリアムが呼びかけると、審判は気を取り直してそう叫んだ。瞬間、闘技場には溢れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く。
リアムは適当に手を振ると闘技場をあとにしたのだった。
やっぱり瞬殺。
リアム君は作者想いのいい子です。
ちなみにルイス君は完全に噛ませキャラです。