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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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第74話 迎えに

遅くなってしまってすみません。


 


 空間操作を完璧に習得したリアムにとって、"距離"という概念はあまり意味を成さない。実際、空間指定による転移を繰り返したリアムはものの十数秒でマグナ帝国に辿り着いた。


「ここから逃げ出してまだ3ヶ月か……」


 それ以上時間が経っているように感じるリアムは、感慨深そうに帝国の夜景を見渡す。何も変わらない景色が変わって見えたのは、リアム自身の変化だろうか。だが、不快な感覚には違いなかった。


「さて、と」


 リアムはもう一度空間を指定し、帝国軍の寮前へと転移した。門番を音もなく無力化し、中へ侵入する。


「ここにアリサさんがいるのか」


 門に帝国軍宿舎と記されているのを確認して呟く。しかし、そこである問題に直面した。


「……よく考えればどこの部屋か分かんねえ。帝国じゃ俺は指名手配されてるから誰かに聞く訳にはいかないし……あれ?どうすればいいんだ?」


 リアムは1人で首を捻らせる。あまり深く考えずにここまで来てしまった。


「……ああ、魔力探知したらいいのか」


 リアムは即座に探知魔法を展開する。アリサの居場所はすぐに分かった。


 だが、


「……腐っても帝国軍か」


 アリサですら気付いていないリアムの探知魔法に、1人だけ気付いた者がいる。その者が猛スピードでリアムの元へ駆けつけるのが分かった。リアムは顔を隠すために深くローブを被り直す。


「貴様、何者だ?」


 凛とした声に、リアムは目を前に向ける。そこには1人の女が立っていた。

 身長はリアムよりもやや高く、がっしりとした体つきをしている。ピンと背筋が伸びており、割と整っている顔は凛々しく、男よりも女にモテそうだ。


「あんたこそ誰だよ」


「私はこの帝国軍女性寮の監長、メリッサ。この寮の秩序であり、守護者でもある。それで、貴様は何をしていた?それだけ高度な魔法を使用して、まさかストーカーなどとは言わないだろうな?」


 メリッサはリアムを嘲るように威圧する。常人ならば怯んでしまうような圧力。しかしリアムからすれば、それは無に等しかった。


「いやあ、そのまさかなんだよなぁ」


「なんだと?」


 ストーカーではないが、やっていることにあまり違いはない。飄々と答えたリアムに、メリッサは眉を顰めた。


「ここにはアリサさんがいるだろ?俺はアリサさんを迎えに来たんだ」


「……アリサ・フリエルを?」


「そーそー。……アリサさんの家名なんて初めて聞いたな。でも、俺も言ってないしお互い様か」


 目の前のメリッサは得体の知れないリアムに対して最大限の警戒をしているが、リアムは呑気に他の事を考えていた。と言うより、警戒する必要がなかった。


「ならば、貴様がアリサ・フリエルの待ち人か?」


「そうだけど、信じてくれんのか?」


「……フードを外せ」


「断るに決まってんだろ」


 メリッサはアリサの待ち人が指名手配中のリアムであることを知っている。つまりそれは、顔を見ればリアムの言葉の真偽が分かると言うことだ。だからこその命令だったのだが、それを知らないリアムからすれば素直に従うわけにはいかない。


「なあ、いいから退いてくんないか?あんまり手荒なことはしたくないんだよ」


「ほう?手荒な手段に出れば、この私をどうにか出来ると?」


「ああ、余裕で出来るね。あんたじゃ相手になんねえ」


 リアムの言葉に嘘はない。悪魔を軽く殺し、最上級悪魔ですら2人も倒したリアムにとって、人間など赤ん坊となんら変わりなかった。

 だがメリッサもまた、自分の実力に自信を持っていた。猛者がひしめく帝国軍では、寮を纏めるだけでも一苦労だ。そんな寮監長という役職を担ってきた彼女にとって、リアムの言動は侮辱でしかない。


「……ならば、まずその驕りから打ち砕いてやろう!」


 メリッサは叫ぶと、瞬時に魔法を発現させた。あらゆる属性の刃が、彼女の周囲に数え切れないほど現れる。


「おお、確かに凄いな」


 その異常な光景に、しかしリアムはのんびりと呟くと、たった一度だけ指を鳴らした。すると、それだけでメリッサが発現させた刃は一つ残らず霧散する。


「あんまり女に手は出したくないんだが、今回は大目に見てくれ」


「……なっ!!?」


 リアムの声はメリッサの真後ろから聞こえた。メリッサは魔法を打ち消されたこと、そしていつの間かリアムが自分の背後へ移動していたことに驚愕の表情を浮かべる。


「ちょっと眠ってろ」


 リアムはそう言うとメリッサの首筋を強く叩く。その一撃でメリッサは気を失った。


「さて……そこにいるのは誰だ?」


 リアムは気絶したメリッサの体を道の端に寝かせると、そばの茂みに向かって声をかけた。実はメリッサと対峙している時、もう一つの気配が隠れていることに気付いていたのだ。


「早く出てこないと、その茂みごと吹き飛ばすぞ?」


「ちょ、ちょっと待って!」


 リアムの物騒な発言に慌てて茂みから飛び出た影が叫んだ。茶髪を一つに束ねている綺麗な女性だ。リアムはどこか懐かしさを覚えたが、すぐに気のせいだと考え直した。


「あんたも俺の探知に気付いたのか?」


 リアムは、探知魔法に気付いたのはメリッサだけだと思っていた。それ以外に自分の魔法に気付いた者はいないと。つまり、この女性も探知魔法に気付いていたのならばメリッサ以上の手練れということになる。気配や雰囲気からはそこまで強そうには見えないが。


「え、探知?なにそれ?」


「……なんでここにいるんだ?」


「えっと、寮監長がなんか急いで走ってるとこ見たから、なにかあったのかな〜って」


 やはり手練れではなかったようだ。しかし、だからと言って放置はできない。


「そうか、残念だったな」


「え?」


「今のやり取りを見てた奴を見過ごせるわけないだろ?好奇心ってのは時に自らの身を滅ぼすもんだ」


 リアムはそう言うと一歩、足を前に出す。メリッサと同じく、気絶させようと構えをとった、


「だから待ってって!私はあなたの味方だから!」


 だが、リアムが動き出す前に女性が制止した。その言葉にリアムは眉を顰める。今の自分はフードで顔を隠している。つまり、相手からすればリアムは全てが謎、しかもたった今寮艦長を気絶させた危険人物でしかないはずだ。


「正体が分からない俺の味方をするって?」


「……リアム君でしょう?」


「っ!……なんで知ってる?」


 リアムは素直に認めると、ゆっくりとフードを脱いだ。それを見て女性は一瞬息を飲む。


「私はマリー。アリサの同僚よ」


「………」


 リアムは自分の魔力をマリーに這わせ、言葉の真偽を探ったが嘘ではないようだった。ひとまず信じることにする。


「それで……アリサさんのとこまて連れてってくれるのか?」


「ええ、そうよ。あなたって、別に悪い人ではないんでしょう?」


 漠然とした質問に、リアムは思わず苦笑する。確かにマリーならアリサと仲良くなれそうだと、なんとなくそう思った。


「いいや、俺は悪い奴だぞ?」




 〜〜〜〜〜




 女子寮の中は騒然としていた。血の寮監長と呼ばれているメリッサが倒れているのを発見されたからだ。


「こっちよ、リアム君」


 そんな中を、リアムはマリーの手引きで隠れながら進む。正直、既にアリサの位置は特定してるし、空間操作を行使すれば周りから姿を見えないようにできるのだが、マリーの申し出を断るのも悪いと思いついていく事にした。


「アリサの部屋はこの先よ」


 5階の廊下の端に身を隠しながら、マリーは一つの部屋を指差す。ほとんど廊下の反対側だ。


「アリサさんはまだ部屋にいるかな?寮内は騒がしいけど」


 この騒ぎを聞きつけて、もしかしたら部屋の外に出ているかもしれない。リアムはそう思い探知魔法を展開しようとするが、


「多分、大丈夫よ」


「……根拠は?」


「アリサね、リアム君が帝国から指名手配された時、あなたを追おうとしたの。でもさっきの寮監長に止められて、色々揉めて謹慎処分受けちゃって。それからあんまり外に出なくなっちゃったから、多分今も部屋にいると思う」


「……なるほど。帝国軍潰してもいいか?」


「冗談はいいから、早く行ったら?」


 リアムとしては割と本気で言ったのだが、マリーは冗談と受け止めたようだ。ひとまず置いておくことにする。


「そうだな。とりあえず行くか」


 周りを確認するが、人の気配はない。ほとんどが下に集まっているのだろう。今なら堂々と廊下を歩けそうだ。


「結構参っちゃってるみたいだから、大切にしてあげてね。それと、たまには私に会いに来てって伝えておいて」


 リアムが一歩踏み出すと、マリーが思い出したかのように声をかけた。彼女も本当にアリサを大切に思っているのだろう。リアムはマリーの方を見る。


「分かった。ありがとな」


 そして軽く礼を言うと、アリサの部屋へ歩き出した。アリサと会うのは約8ヶ月ぶり。少し緊張する。もし自分のことを忘れていたらどうしよう。その場合、多分立ち直れないな。

 などと考えていると、すぐに部屋の前まで着いてしまった。リアムはローブの裾を正す。


「……よし」


 そしてゆっくりと、扉をノックした。






また忙しくなってきましたが、この章が終わるまでは毎日投稿してみせます。

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